うつ病の発症や重症化に個人の性格は影響するのか?
広島大学は10月1日、従来から知られていたうつ病の血液バイオマーカーの識別性能が、特定の性格を有する集団で飛躍的に向上することを発見したと発表した。この研究は、同大病院検査部の瀬戸山大樹助教と康東天教授、同大山脇成人特任教授および鳥取大学の岩田正明准教授らの共同研究によるもの。研究成果は、「Journal of Affective Disorders」に掲載されている。
画像はリリースより
うつ病は自殺に至る危険が最も高い精神疾患であることから、客観的にモニタリングすることが可能なバイオマーカーの開発が急務だ。研究グループは、これまでに質量分析による血液メタボローム解析を駆使することにより、血液中のいくつかの代謝物がうつ病の判別や重症度に関連していることを報告してきた。一方、心理学的研究から、うつ病の発症や重症化に個々人の性格が影響するということが長年示唆されてきたが、うつ病に関連する血液成分との関連についてはほとんど検証されていなかった。
「性格の偏りが少ない集団」に限定した場合、識別性能が飛躍的に向上
研究グループはまず、BIG-5による性格検査により、未服薬の大うつ病患者100人と健常者100人を、神経症傾向が高く外向性が低い「うつ気質」と呼ばれる性格を有する集団、その真逆の性格傾向の集団、そして、このような性格の偏りが少ない集団(患者と健常者が半数ずつ含まれる86人)に層別化した。
次に、血液メタボローム解析で得た代謝物情報に基づく機械学習モデルを作成し、うつ病か否かを判別させると、全被験者を対象とした場合に比べ、「性格の偏りが少ない集団」に限定した場合、その識別性能が飛躍的に向上した。この集団ではトリプトファン、セロトニン、キヌレニンなどのトリプトファン経路の代謝物が判別に大きく貢献していた。
「うつ気質」では比較的弱いストレスでもうつ病になるリスクが高いが、「うつ気質」でなくても強いストレス下ではうつ病が引き起こされることがまれではない。今回のような「性格の偏りが少ない集団」の中のうつ病患者はこのタイプである可能性がある。
そこで、ストレスとうつ病と血中代謝物との因果関係を探るために、ストレス誘発性うつ病モデルとして知られる、社会的敗北ストレスモデルマウスの血中代謝物を測定したところ、ストレス負荷後に血中トリプトファンが低下していた。
個別化医療の実現に期待
今回の研究は、性格がうつ病血液バイオマーカーの識別性能と関連することを示した初めての報告となった。うつ病と言っても、病前性格によってさまざまなタイプに分類される。現在の抗うつ薬の多くは、トリプトファン経路の代謝物であるセロトニンをターゲットにしているが、効果の発現に個人差がある。
同研究は、性格の違いにより、うつ病のバイオタイプが異なる可能性を示唆しており、今後、バイオタイプの違いによって、治療効果発現に違いがあるかの大規模サンプルを用いた実証研究が求められる。今後の研究の発展により、性格検査や採血により一人ひとりのバイオタイプを事前に把握することによる個別化医療の実現が期待される。
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・広島大学 研究成果