高齢者のプライマリ・ケアの質指標スコアと予防接種率との関連を調査
横浜市立大学は10月1日、「プライマリ・ケア」を受診した65歳以上の高齢者1,000人を対象とした調査研究から、「必要なときに幅広い内容の相談ができる」など、プライマリ・ケアで受けられるサービス内容が充実している患者ほど、インフルエンザおよび肺炎球菌予防接種の接種率が高いことが判明したと発表した。これは、同大大学院データサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻の金子惇講師(研究当時浜松医科大学特任助教)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of General and Internal Medicine」に掲載されている。
画像はリリースより
厚生労働省がインフルエンザおよび肺炎球菌予防接種の接種対象者と定める高齢者の実際の接種率はそれぞれ50.2%、37.8%と十分とはいえない状況である。他国においても同様に不十分な接種率が課題となっている。これまでの研究では、小児の予防接種やがん検診の受診などの予防医療行動と、プライマリ・ケアにおいて「患者が医療ケアのプロセスで経験した事象(Patient Experience, PX)」のスコアが正の相関を持つことが指摘されていたが、高齢者の予防接種とPXの関連は不明のままだった。そこで研究グループは、プライマリ・ケアにおける高齢者のPXとインフルエンザおよび肺炎球菌予防接種実施の関連を調べた。
JPCATスコアが1標準偏差分増加すると、インフルエンザ予防接種実施は1.19倍増加
研究グループは、日本のプライマリ・ケアの質評価・向上を目的として、全国25か所の総合内科、家庭医療科、総合診療科の無床診療所および200床未満の病院を受診した20歳以上の全外来患者を対象にした質問紙調査「PROGRESS研究」の中から、2018年2~3月の特定週1週間に受診して調査に回答した65歳以上の1,000人を抽出。日本初のプライマリ・ケアにおけるPX尺度「JPCAT」(Japanese version of Primary Care Assessment Tool)を用いて、評価・解析を行った。
その結果、予防接種率はインフルエンザが68%、肺炎球菌が53.8%だった。年齢、性別、学歴、世帯年収、主観的健康観の交絡因子を調整した後も、JPCATのスコアが1標準偏差分増加すると、予防接種を受けている人の割合がインフルエンザで1.19倍、肺炎球菌で1.26倍増え、予防接種実施と正の相関を示すことが明らかになった。
「今回の研究では原因と結果を直接証明することはできない」と前置きしつつも、プライマリ・ケアにおいて患者が必要としている機能を十分に提供することで予防接種の接種率が向上する可能性があるという。「JPCATの調査を参考にしながらプライマリ・ケアを改善することで、高齢者の予防接種率向上に寄与する可能性も考えられる」と、研究グループは述べている。
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