さまざまな疾患の分子標的薬候補として期待されるhLF、血中安定性が課題だった
東京工科大学は9月30日、ヒトラクトフェリン(hLF)にヒト血清アルブミン(HSA)を融合し、血中安定性と抗腫瘍効果を高めたhLF製剤を開発したと発表した。この研究は、同大大学院バイオニクス専攻の佐藤淳教授らの研究グループが、国立医薬品食品衛生研究所、鳥取大学農学部との共同研究として行ったもの。研究成果は、「European Journal of Pharmaceutical Sciences」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
hLFは、自然免疫で機能するタンパク質であり、その作用からバイオ医薬品としての応用が期待されている。例えば、抗腫瘍効果以外では、急速進行性糸球体腎炎の主要因と考えられるNeutrophil extracellular traps(NETs)や、敗血症の主要因であるエンドトキシンと強く結合することで、その毒性を中和する。同研究グループの最近の研究で、hLFが脊髄損傷での主要因であるコンドロイチン硫酸に結合し、その毒性を中和することを発見している。hLFは、これら疾患への分子標的薬としての展開が期待される一方、血中安定性が低いという課題があった。そこで今回の研究では、血中安定性を向上させる方法として、HSA融合技術に着目し、ラットでHSA融合hLFの血中安定性と抗腫瘍効果(がん細胞の増殖阻害)を検証した。
HSAとhLFを融合することにより、血中安定性と抗腫瘍効果の向上に成功
まず、融合の向きを換えた2種類のHSA融合hLFを遺伝子組換え技術で作製してラットに投与し、その血中安定性を検証。結果、hLFのみと比較して、両融合hLF(HSA-hLF、hLF-HSA)ともに長い半減期を示し、特にHSA-hLFは顕著な半減期の延長を示した。hLFのみ、HSAのみの場合は、ヒト肺腺がん細胞株PC-14の増殖を阻害しなかったが、両融合hLFはその増殖を顕著に阻害した。また、hLFとHSAを融合せず同時に添加した場合は、その効果が認められなかったことから、HSAのhLFへの「融合」が、がん細胞増殖阻害活性に重要であることが示さた。HSA融合hLFのヒトがん細胞株に対する増殖阻害効果は、正常ヒト肺細胞株であるWI-38には認められないことから、がん選択的であると考えられ、今後抗がん剤としての展開が期待される。
HSA融合技術により、hLFの血中安定性、さらにその抗腫瘍効果の向上が確認された。HSA融合によるhLF活性の増強効果は、抗腫瘍作用以外でも認められることから、種々の疾患に対するバイオ医薬品としての実用化が期待される。既に、同製剤を用いて、hLFのバイオ医薬品開発に特化したベンチャー企業であるS&Kバイオファーマが、急速進行性糸球体腎炎、脊髄損傷、敗血症、がんなどの治療薬の開発に着手している。
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・東京工科大学 プレスリリース