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神経幹細胞の運命を制御する分子「Qk」を発見、メカニズムも明らかに-京大ほか

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2020年09月30日 PM01:15

神経幹細胞からグリア細胞が作られるメカニズムは不明だった

京都大学は9月28日、神経幹細胞の運命を制御する分子としてRNA結合タンパク質「(quaking)」を発見し、その制御メカニズムを明らかにしたと発表した。これは、同大医学研究科の武内章英准教授と萩原正敏教授らの研究グループが、、名古屋大学と共同で行ったもの。研究成果は、「Stem Cell Reports」に掲載されている。


画像はリリースより

複雑なヒトの脳がどのように形成されるかを明らかにすることは、現代の脳科学の大きな命題となっている。特に、胎児の脳の形成過程を理解することで、脳の異常がどのように起こるのか、さらにそれをどう治療すれば良いのかがわかると同時に、人工的に脳の一部を作り補完したりすることができるようになる可能性もある。

胎児期に脳内で神経細胞が産生される神経新生の分子機構は比較的よく解明されている一方で、神経幹細胞からグリア細胞が産生されるメカニズムは、重要な制御因子がなかなか発見されない状況で、「グリア細胞はアストロサイト、オリゴデンドロサイトという2種類の細胞からなるが、神経幹細胞が直接この2つをそれぞれ産生するのか、または神経前駆細胞のようなグリア前駆細胞を最初に作り、そこからさらに分化するのか?」「グリア前駆細胞が存在する場合、特異的に識別する分子は何なのか?」「神経幹細胞が神経細胞とグリア細胞を作り分けるメカニズムはどのようなものなのか?」というようなことが、長い間明らかにされていなかった。

神経幹細胞からグリア細胞を誘導するために必須のRNA結合タンパク質「Qk」を発見

今回研究グループは、神経幹細胞からグリア細胞を誘導するために必須のRNA結合タンパク質「Qk(qualing)」を発見した。また、Qkが欠損することで、脳内の2つのグリア細胞(アストロサイト、オリゴデンドロサイト)の産生が優位に減少した。つまり、グリア細胞産生の重要な因子を同定した。

さらに、Qkはグリア細胞の産生・分化に必要な遺伝子群を包括的に制御してその発現を上げるのに必要であることを明らかにした。加えて、Qkが欠損することで、グリア前駆細胞に分化するはずの神経幹細胞が神経前駆細胞に分化してしまう異常を見出した。このことは、神経幹細胞の神経新生とグリア新生の切り替えのメカニズムの発見ともいえる。

最後に、これまで神経幹細胞から2つのグリア細胞ができる系譜が明らかでなかったが、神経幹細胞からグリアの前駆細胞が最初に作られ、その細胞からさらにアストロサイト、オリゴデンドロサイトの2つを産生することを見出し、さらにQkはグリアの前駆細胞を同定できるマーカーであることを示した。

今回の知見が神経・精神疾患の診断・治療薬開発・治療に貢献する可能性

今回研究グループが、これまで未解明だった神経幹細胞からグリア細胞の分化制御機構が発見し、さらにグリア細胞分化の細胞系譜とそのマーカーが明らかしたことで、神経幹細胞分化制御の解明に向けて大きく前進した。この知見は、iPS細胞のような万能細胞から神経系や脳の細胞を人為的に誘導することに応用が可能なため、神経・精神疾患の診断・治療薬開発・さらに治療に貢献できると考えられる。また、Qkは悪性の脳腫瘍である神経膠芽腫や精神疾患である統合失調症などでその遺伝子の異常が認められていることから、これらの疾患の分子病態の解明や治療法開発につながると思われる。

研究グループは、「RNA制御に着目して神経発生や脳形成の謎の解明に挑戦し、さらに原因不明の神経難病や精神疾患の病態の理解や治療を目指すRNA Neurobiology(RNA神経生物学)をいう新しい研究を展開しており、今回の成果はこの研究プロジェクトの1つとして花開いたもの。今後一連の研究をさらに進めることで、脳科学・医学研究に貢献していきたいと思っている」と、述べている。

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