脳マラリアに血液脳関門は関連、では血液脳脊髄液関門は?
群馬大学は9月25日、新しく開発した手法により、脳マラリア(脳症)を発症した感染マウスのうち70~80%は血液脳脊髄液関門という機構が破綻していることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科生体防御学講座のNgo-Thanh Ha(ゴー タン ハー)大学院生と今井 孝助教らが、大阪大学、国立感染症研究所との共同研究として行ったもの。研究成果は、「International Journal for Parasitology」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
マラリアはエイズ、結核と並ぶ世界3大感染症の1つであり、早急な制圧が望まれている。WHOによると現在全世界で1年あたり2億人の患者と、40万人の死亡者が出ると報告されている。重症マラリアによる死因は、脳マラリアならびに肺障害、貧血などが主なものと考えられている。脳には血管内外の物質の移動を制御する2つの関門「血液脳関門」と「血液脳脊髄液関門」がある。脳マラリアにおいては、血液脳関門の破綻が発症原因であるとこれまで考えられてきた。しかし別の関門である、血液脳脊髄液関門と脳マラリアの関係性はよくわかっていなかった。
開発した手法で脳マラリア発症マウスの血液脳脊髄液関門破綻を発見
今回、研究グループは、まずマウスを用いて血液脳脊髄液関門の透過性(破綻)を定量的に評価する手法を新たに開発した。この手法は「特殊な青色色素の静脈内投与」「後頭部に位置する大槽(だいそう)を露出させる解剖技術」「画像解析」を組み合わせている。
青色色素を血管に注入しても通常は脳の2つの関門により色素が脳血管外へは流出しない。しかし、脳マラリア発症マウスのうち70~80%は血管に注入した青色色素により脳脊髄液が青く染まっていた。すなわち、血液脳脊髄液関門の透過性が向上し破綻することが判明した。一方で脳症を引き起こさないマラリア感染マウスでは、血液脳脊髄液の破綻は認められなかった。
血液脳脊髄液関門の破綻、脳症の発症にはキラーT細胞が関与
また、血液脳脊髄液関門の破綻にはキラーT細胞が関与していた。実験的にキラーT細胞をマウスから除去すると脳マラリアを発症しなかった。さらに、血液脳脊髄液関門を構成している脈絡叢(みゃくらくそう)においてマラリア原虫の代謝産物であるヘモゾインが検出された。
今回の研究で、マラリア感染により脳の2つの関門が破綻することが明らかになった。研究グループは、「マラリアにおける脳の関門の破綻メカニズムを詳しく調べることで、脳内に届く薬剤開発へ貢献できる可能性がある」と、述べている。
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・群馬大学 プレスリリース