グレーブス病の抗甲状腺薬治療で起こる重篤な副作用「無顆粒球症」
国立遺伝学研究所は9月24日、抗甲状腺薬の重篤な副作用である無顆粒球症の新規リスク因子としてHLA-B*39:01:01を同定したと発表した。この研究は、同研究所井ノ上研究室の中倉沙弥氏(総研大遺伝学専攻)が中心となり、野口病院、金沢大学、東海大学、佐々木研究所との共同研究として行われたもの。研究成果は、「The Pharmacogenomics Journal」に掲載されている。
画像はリリースより
グレーブス病は自己免疫機構により甲状腺の活動性が亢進する疾患。グレーブス病の治療として抗甲状腺薬の投与を受けた患者のうち、0.1%~0.5%に重篤な副作用である無顆粒球症という副作用が起こる。無顆粒球症とは血液中の顆粒球(主に好中球)が500/mm3以下に低下した状態を指し、免疫力の低下によって生命の危険を伴う重症感染症を引き起こす可能性がある。抗甲状腺薬の服用によって無顆粒球症が引き起こされるメカニズムはほとんど解明されていない。しかし、特定のタイプのヒト白血球抗原(HLA)遺伝子型が無顆粒球症の発症リスクに関連することから、免疫システムを介した細胞傷害が発症機序に関わっていると考えられている。
HLAは非常に多型性の高い遺伝子群であり、人種によって多型のパターンが大きく異なることが知られている。日本人集団において、無顆粒球症発症リスクに関連するHLA遺伝子型を網羅的に探索する研究は行われていなかった。そこで、研究グループは、同研究室で開発したHLA遺伝子配列決定法を用いて、新たな無顆粒球症発症リスク因子の同定を試みた。
グレーブス病患者ゲノム解析で無顆粒球症リスク因子としてHLA-B*39:01:01を同定
研究グループは、抗甲状腺薬投与後に無顆粒球症を発症したグレーブス病の患者87例および無顆粒球症を発症していないグレーブス病の患者384例に対して、次世代シーケンサーを用いてHLA遺伝子配列を決定。統計解析、連鎖不平衡解析、ハプロタイプ解析を行った結果、HLA-B*39:01:01を新たな無顆粒球症発症リスク因子として同定した。
HLA-B*39:01:01と無顆粒球症発症リスクの関連について再現性を確認するため、他の研究グループによる先行研究からHLA-B*39:01:01の頻度情報を抽出して再解析を実施。その結果、中国、台湾、ヨーロッパのいずれの集団においてもHLA-B*39:01:01が無顆粒球症発症リスクと統計的に有意な関連を示すことが確認された。これらの結果から、HLA-B*39:01:01が集団を越えた無顆粒球症発症リスク因子であることが明らかになった。以上から、抗甲状腺薬によって引き起こされる無顆粒球症においてHLAを介した過敏性反応が重要な役割を果たしていることが示唆された。
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・国立遺伝学研究所 Research highlights