迅速で高性能の抗体の作製技術、パンデミックを抑えるために必要不可欠
名古屋大学は9月23日 、新型コロナウイルスを捕捉・不活性化する人工抗体を作製したと発表した。この研究は、同大大学院工学研究科の村上裕教授らと、国立病院機構名古屋医療センター臨床研究センター感染・免疫研究部の岩谷靖雅部長らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Science Advances」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
ウイルスのタンパク質に強く結合する抗体は、治療目的の中和抗体や抗原検査の際にウイルスタンパク質を特異的に捕捉する抗体として使用できる。そのため、迅速で高性能の抗体の作製技術は、急速なパンデミックを抑えるために必要不可欠だ。
一般的に、抗原検査に使用する抗体や中和抗体は、数か月の開発期間を要する動物免疫によって得られる。この開発期間を短縮するために、近年、人工抗体を試験管内で創製する研究開発が進められている(2018年ノーベル化学賞のファージ提示法、mRNA提示法、cDNA提示法など)。
新型コロナウイルスに対して高い中和活性を有する
研究グループは、新しい試験管内抗体作製法として、10兆種類の高い多様性を有する人工抗体候補群の中から、高速に人工抗体を選び出す技術を開発した。まず、この方法を用いて、新型コロナウイルスに対する人工抗体を作製。研究グループは2020年の4月7日に、標的となる新型コロナウイルスのスパイクタンパク質を受け取り、10兆種類の人工抗体候補群の中から標的に結合する人工抗体を4日で同定することに成功している。
得られた人工抗体は、単量体で新型コロナウイルス表面のスパイクタンパク質にKD=0.4nM程度と非常に強く結合した。一方で、ヒトに感染するウイルスとしては最も近縁のSARSコロナウイルス表面のスパイクタンパク質には結合せず、高い特異性を示した。また、同人工抗体を患者の鼻ぬぐい液と混ぜ、人工抗体を磁気ビーズで集めることで、高効率に新型コロナウイルスを濃縮することにも成功。さらに新型コロナウイルスと人工抗体を混ぜることで、新型コロナウイルスを細胞に感染できなくなるように中和することができた。この中和活性は、IC50=0.5nM程度と、これまでに報告されている中和抗体のうち最良のものと同等であった。
容易に大量生産可能、抗原検査による迅速な診断にも役立つ可能性
同人工抗体の骨格はヒト由来のタンパク質であり、抗原性は低いと予想される。さらに、通常の抗体とは異なり大腸菌で容易に大量生産可能だ。今後、中和抗体としての応用とともに、抗原検査による迅速な診断にも役に立つと考えられるという。
また、今回の研究で開発した人工抗体を高速に開発する方法(TRAP提示法)は、短時間で人工抗体を創製できるため、今後のパンデミックに素早く対処するための新技術となることが期待される、と研究グループは述べている。
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・名古屋大学 プレスリリース