HTLV-1感染による成人T細胞白血病は同種造血幹細胞移植によって生命予後が改善
東京医科歯科大学は9月18日、成人T細胞白血病に対する同種造血幹細胞移植後に起こる炎症は、他臓器に先行して眼内に炎症(樹氷状網膜血管炎)が出現することを報告し、眼科検査の重要性を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野の鴨居功樹講師と大野京子教授の研究グループが、東京大学医科学研究所附属病院血液内科(東條有伸教授・病院長、加藤せい子助教)、東京大学大学院新領域創成科学研究科(内丸薫教授)との共同研究として行ったもの。研究成果は、「THE LANCET Haematology」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
世界で3000万人以上が感染しているHTLV-1は、日本に約108万人の感染者がいると推定されるウイルスで、先進国の中で日本に最も多くの感染者が存在する。近年、HTLV-1はオーストラリアの先住人であるアボリジニの40%以上の成人が感染していることが明らかになり、世界保健機構(WHO)をはじめ、世界中から注目を集めている。このウイルスは成人T細胞白血病、HTLV-1関連脊椎症、HTLV-1ぶどう膜炎など、ヒトに病気を起こすため、先進国の中で最も感染者が多い日本は、このウイルスに対して率先して取り組む責務がある。
HTLV-1感染で引き起こされる成人T細胞白血病は、かつて生命予後が不良だったが、現在、同種造血幹細胞移植によって生命予後の改善がみられる。成人T細胞白血病関連眼疾患としては、Knob-like ATL cell Multiple Ocular Infiltration sign(KAMOI sign)を特徴とする眼浸潤や、サイトメガロウイルス網膜炎といった眼感染症など目に病変を起こすことが知られているが、これまでに同種造血幹細胞移植によって起こる目の病変は明らかになっていなかった。
移植後、他の臓器・部位に先行して眼内に樹氷状網膜血管炎が出現、眼科検診は重要
同種造血幹細胞移植によって成人T細胞白血病患者の生命予後は改善したが、移植前処置(抗がん剤、放射線照射)を含む同種造血幹細胞移植における一連の治療は、患者の免疫恒常性の破綻、免疫寛容の減弱を起こし、全身に炎症が生じることがある。そこで研究グループは、成人T細胞白血病患者に対して、同種造血幹細胞移植の前後に眼科検査、全身検査を行い、かつ長期に渡るフォローアップを実施。その結果、成人T細胞白血病に対して同種造血幹細胞移植を行った後に生じる炎症は、他の臓器・部位に先行して眼内に炎症が生じ、樹氷状網膜血管炎という特徴的な所見を呈することを世界で初めて明らかにした。
成人T細胞白血病における同種造血幹細胞移植に関連した眼症状はこれまで明らかでなかったが、移植後の炎症は、他の部位に先行して眼内に炎症(樹氷状網膜血管炎)が起こるという今回の報告によって、移植後の患者のフォローアップの際には、積極的な眼科検査を行い、早期に炎症を発見することが重要であることが示された。現在、同種造血幹細胞移植によって成人T細胞白血病患者さんの生命予後の改善がみられるが、今後は移植後の患者のQuality of Life(生活の質)が重要になってきている。研究グループは、「患者のQuality of Lifeに重要なQuality of Vision(視力の質)を守る観点からも、眼科検査は重要と考えられる」と、述べている。
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