2次元のオンライン診療ではパーキンソン病患者の運動症状を把握しにくい
順天堂大学は9月17日、世界初(同大調べ)となる3次元オンライン診療システム「Holomedicine(ホロメディスン)」を開発したと発表した。これは、同大大学院医学研究科神経学の服部信孝教授、大山彦光准教授、関本智子非常勤助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Movement Disorders」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、通院に伴う感染リスクを低減する必要性が急速に高まっている。一方、パーキンソン病などの慢性疾患患者は専門医への受診中断により健康状態悪化のリスクがあり、感染拡大の状況下において、感染リスクを最小化しつつ安全かつ安心に専門医への通院を継続できる社会基盤の整備が急務だ。通院における感染リスクを低減する方法の1つに遠隔医療(テレメディシン;Telemedicine)がある。神経難病に対する遠隔医療技術として、ビデオ通話機能を用いた2次元のオンライン診療があるが、パーキンソン病患者の運動症状を医師が詳細に把握しにくいなどの課題があった。そこで研究グループは、実際に対面して得られる患者の運動症状を、遠隔地においても評価可能にする3次元オンライン診療システムの開発に取り組んだ。
「複合現実」を用いることで、実際に対面しているかのように診察可能
研究では、遠隔地にいる患者の3次元動作情報を、マーカレス3次元モーションスキャナー(Kinect v2)を用いてリアルタイムでスキャンし、離れた場所にいる医師のもとに3次元動作情報を複合現実(Mixed Reality)として実現するヘッドマウントディスプレイ(HoloLens)を介して再構築し、まるで患者が目の前にいるかのように診察できる双方向性3次元オンライン診療システム「Holomedicine(ホロメディスン)」を開発した。ホロメディスンとは、ホログラムとテレメディスンから命名したもの。同システムではヴァーチャルリアリティ(VR)ではなく、現実とヴァーチャルを融合した複合現実を用いることで、患者も医師も、お互いのいる環境に相手が来て、対面しているかのように見ることができる。また、音声通話機能も搭載しているため、同システムのみで診察を完了することができる。
パーキンソン病患者の運動症状の評価スコアは対面評価と相関
今回、実際にパーキンソン病患者100人に対して、同システムを用いて評価したパーキンソン病の運動症状のスコア(UPDRS-III)と、従来の対面による評価による運動症状のスコアを比較したところ、級内相関係数で相関が高く、信頼性が高かったことから、対面診療の代わりとして評価に用いることができることが示された。
5GとAIを組み合わせ、ポストコロナを見据えた未来のオンライン診療の実現へ
同システムは、運動障害および神経疾患を3次元かつ遠隔でとらえることができるため、パーキンソン病のみならず、ポストコロナを見据えた未来のオンライン診療の可能性を広げる大きな一歩になると考えられるもの。5Gといった高速通信との併用で、患者は家にいながらにして、まるで病院の診察室に来たかのように診察を受けることが可能になるため、通院が困難な運動障害患者であっても、通院の時間や費用を軽減でき、不要な感染リスクを減らすことにつながる。今後さらに、マイクロソフトの最新デバイス(HoloLens 2およびAzure Kinect)によるシステムの改良を行い、さらに精度を高める予定だという。
また、同研究成果をもとに、診察時の3次元動作情報のデータをクラウドデータベースに蓄積し、AIによる機械学習・深層学習を用いた運動障害疾患患者の動作情報の解析を進めることで、パーキンソン症状やその他の神経症状を自動判定できる診断補助アルゴリズムの構築に応用可能だ。そうなれば、専門医以外でも、同システムを用いて3次元オンライン診療を行った際に、複合現実空間に神経疾患の症状の情報を表示し、それを参考に診察することができるようになることが期待できる。
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・順天堂大学 プレスリリース