軸索変性症の発症に「プロトルーディン」は関連する?
名古屋市立大学は9月11日、神経疾患の原因タンパク質である「プロトルーディン」(Protrudin)と、心的外傷後ストレス障害(PTSD)のリスクファクターとしても知られる「PDZD8」が、脂質輸送を介してエンドソーム成熟に働き、それが神経細胞の健常性維持に寄与していることを明らかにしたと発表した。これは、同大大学院薬学研究科の白根道子教授と九州大学生体防御医学研究所の中山敬一主幹教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」に掲載されている。
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神経細胞は軸索という長い突起を持っており、その中をエンドソームが輸送されることにより、さまざまな物質を突起先端に向けて運んでいる。このエンドソームの極性輸送は、遠く離れたターゲット細胞に向けて神経突起を伸長したり、神経伝達物質を分泌したりする、神経細胞の基盤となる機構である。そのエンドソーム輸送に不全をきたすと、神経変性疾患を発症する。しかしその発症機構の詳細についてはこれまで不明だった。
研究グループは、皮質脊髄路の運動神経が損傷する軸索変性症「遺伝性痙性対まひ」の関連タンパク質「プロトルーディン」に着目した。プロトルーディンは、エンドソーム輸送を制御し神経突起伸長を促進させる分子。近年、エンドソーム輸送が、小胞体(ER)と エンドリソソーム(LyLE)の間の膜接触部位(MCSs)というマイクロドメインで制御されていること、そしてその MCSs の破綻が軸索変性症の原因と関連することが示唆されていた。そこで研究グループは、プロトルーディンについてプロテオミクス解析を行い、詳しく調べた。
プロトルーディンはPDZD8と複合体を形成
プロトルーディンの解析結果から、新たに「PDZD8」を同定。超解像顕微鏡を用いてPDZD8の詳細な細胞内局在を調べたところ、ER-LyLE間MCSsにPDZD8が検出された。そして、プロトルーディン、PDZD8いずれも、ERとLyLEの繋留を促進する作用があることが示された。また、Liposome-FRETアッセイによって、PDZD8がリン脂質やセラミドやコレステロールなど複数の脂質を抽出する活性を持つこと、そしてSMPドメインを含む領域がその責任領域であることが見出された。
プロトルーディン/PDZD8ノックダウンで、極性異常と軸索変性の亢進
エンドソーム成熟は、ERとLyLE間のMCSsで、エンドソームの分裂と融合により進行することが示唆されていた。加えて、遺伝性痙性対まひの原因遺伝子の変異によりERとLyLE間のMCSsに不全が起こり、その結果LyLEの異常な肥大化が起こることが報告されていた。そこで、研究グループは、 プロトルーディン-PDZD8複合体とエンドソーム成熟との関係を調べた。神経細胞でプロトルーディンまたはPDZD8のノックダウンを行ったところ、LyLEの肥大化が認められ、また SMP ドメインを欠損した PDZD8 を発現させても同様の表現型が認められた。よって、PDZD8による脂質輸送が、エンドソーム成熟に必要であることが示唆された。
さらに、神経の極性や軸索変性症との関連について調べたところ、神経細胞においてプロトルーディンやPDZD8のノックダウンを行うと、極性異常と、軸索変性の亢進が認められた。つまり、プロトルーディン-PDZD8複合体は、神経細胞の極性形成に必須であり、また神経の健常性維持に働いていることが示された。
「今回の発見は、神経変性疾患だけでなく精神疾患も含む神経疾患全般に対し、発症原因の解明と新たな治療法の開発につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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・名古屋市立大学 報道発表