新型コロナウイルスの感染拡大を背景に、被験者が医療機関に来院せず治験を実施する手法が検討されている。医師による訪問型治験やオンライン診療によるバーチャル治験が検討されているが、訪問看護の導入もその一つ。看護師が被験者宅を訪問し、持ち運び可能な検査機器で検査を実施したり、医師の指示のもと検体を採取し、医療機関や検査機関で検査を行う。
治験施設支援機関に所属する治験コーディネーター(CRC)は、医療行為の補助が行えないとされているが、治験実施医療機関に所属する看護師については新型コロナウイルスへの緊急対応として、「治験責任医師の監督・指示のもとで被験者宅を訪問して治験薬などの投与を行うことは可能」との見解が厚生労働省から示されている。
製薬協の調べによると、国内治験で訪問看護を導入していたのは2社で、希少疾患対象の国際共同第III相試験、神経疾患対象の第I相国際共同治験で実施されていた。現在利用を検討中、検討した経験のある企業は5社に上った。
治験に訪問看護を活用した事例はまだ少ないものの、最近では訪問看護などのサービスプロバイダーが医療機関の治験業務を請け負うモデルが検討され、今後広がる可能性がある。
課題としては、規制面や費用面、医療機関側の体制、対面診療でないことによる患者の安全性確保などに加え、治験業務を担う訪問看護師を育成する必要性が指摘されている。CRC経験のある看護師に訪問看護教育、訪問看護師にGCPなど治験に関連した教育が求められるほか、訪問看護師がCRCと一緒に被験者宅を訪問する方法も検討されている。
一方、治験を実施する際に被験者の自宅に検査キットを送付し、被験者自身による検体採取も検討されている。今回のアンケート調査でも1社が「経験あり」と回答し、国際共同第III相試験に参加した被験者自身が便検体を採取、回収した。検討中、検討経験ありも1社あった。
ただ、治験依頼者が被験者の個人情報を取り扱う危険性や医療法、感染症法、航空法などの関連規制を留意する必要性など、導入のハードルは高い。