抗菌/血管拡張作用をもつ亜硝酸塩、細菌性口腔疾患を抑制する可能性で注目
東北大学は9月10日、口腔常在菌ベイヨネラ属の持つ亜硝酸塩産生活性が酸性、嫌気、高乳酸、高硝酸塩環境で増強すると同時に、口腔ベイヨネラ自身は亜硝酸塩に対し高い耐性を持つことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院歯学研究科口腔生化学分野の髙橋信博教授、鷲尾純平講師およびDimas Prasetianto Wicaksono歯科医師らの研究グループによるもの。研究成果は、米国微生物学会誌の一つ「Applied and Environmental Microbiology」に掲載されている。
近年、緑黄色野菜や唾液に多く含まれる硝酸塩が、口腔内細菌により代謝・還元され、亜硝酸塩が産生されることに注目が集まっている。亜硝酸塩は、抗菌作用と血管拡張作用を持ち、口腔内細菌により産生された亜硝酸塩が、他の口腔細菌の増殖や働きを抑え、う蝕などの細菌性口腔疾患を抑制する可能性が考えられている。また、血管拡張効果により、狭心症や心筋梗塞などの全身疾患の予防に寄与している可能性も考えられている。
口腔ベイヨネラ属は、そのような亜硝酸産生能(硝酸還元能)を持つ口腔細菌の一つとして知られており、健康な人の口腔内にも多く存在する常在菌だ。しかし、その亜硝酸産生に関わる詳細な代謝機構、また常に変化する口腔環境により、その代謝が受ける影響についても不明だった。
画像はリリースより
口腔ベイヨネラの亜硝酸産生活性の変化や、ベイヨネラ自身に対する亜硝酸塩の影響は?
今回、研究グループは、口腔内環境を想定した各種条件下(酸素濃度、pH、乳酸濃度、硝酸濃度等)で、口腔ベイヨネラ属の亜硝酸産生活性がどのように変化するのかに関する代謝的特徴を、さらには口腔ベイヨネラ自身に対する亜硝酸塩の影響について、詳細に明らかすることを目的に研究を進めた。
今回の研究では、2種の口腔ベイヨネラ属(Veillonella atypica、Veillonella parvura)を使用。各菌を通法に従って培養後、菌懸濁液を作製した。試験管に、菌懸濁液、基質(1mM硝酸カリウム)、乳酸ナトリウム(0-50mM)、pHを調整するための緩衝溶液(pH5もしくはpH7)を入れ、好気、嫌気の両環境下、37度にて代謝させた際の亜硝酸産生量を、グリース試薬を用いた比色法で測定した。また、硝酸塩を加えた培地にて培養した菌を用いて、同様に亜硝酸産生を測定し、その影響を検討。併せて、上記の代謝に伴い産生された有機酸などの測定を行い、代謝生化学的・化学量論的な探索を行い、その代謝機構について詳細な検討を行った。
さらに、亜硝酸塩による口腔ベイヨネラ属自身への影響を調べるため、上記2種の口腔ベイヨネラ属、およびう蝕関連菌であるミュータンスレンサ球菌(Strptococcus mutans)を1種用いて、各培地に亜硝酸塩を添加(0-100mM)した際の増殖への影響を検討した。
嫌気、酸性、高乳酸の各環境下で亜硝酸産生活性が増加
まず、口腔内環境を想定した各条件下において、硝酸塩を基質とした亜硝酸産生量を測定し、その産生活性を比較したところ、嫌気、酸性、高乳酸の各環境下にて、産生活性がより高くなった。また、硝酸塩存在下で培養した場合に、亜硝酸産生活性が増加することも明らかとなった。
代謝生化学的・化学量論的探索したところ、口腔ベイヨネラ属では、嫌気性の乳酸酸化反応と、硝酸塩から亜硝酸への還元反応が、電子の授受を介して共役していることが示された。この機構により、乳酸存在下で亜硝酸産生活性が増加したものと考えられた。
口腔ベイヨネラ自身は亜硝酸に対して高い耐性
最後に、亜硝酸塩による増殖への影響について確認したところ、Streptococcus mutansでは0.5mM存在下で有意な抑制がみられたのに対し、口腔ベイヨネラでは20mM以上で有意な抑制が確認され、口腔ベイヨネラ属自身の亜硝酸に対する耐性の高さが示された。
今回の研究では、口腔常在菌として健康な口腔内にも多く生息する口腔ベイヨネラ属による亜硝酸産生活性が、酸性、嫌気、高乳酸、高硝酸塩の環境下で増強するという代謝的特徴が明らかになった。また、口腔ベイヨネラ自身は、亜硝酸塩に対し高い耐性を持つことも明らかになった。
産生された亜硝酸塩、う蝕予防のみならず循環器系の機能改善にも期待
歯科二大疾患の一つであるう蝕は、口腔細菌の糖代謝によって産生される乳酸などの有機酸が歯表面を酸性にして脱灰することで生じる。口腔ベイヨネラはう蝕が生ずる環境、すなわち、乳酸が増え酸性化した環境で亜硝酸塩を効率的に産生すると考えられる。そして、産生された亜硝酸塩は口腔レンサ球菌などの酸産生菌を抑制し、う蝕予防に寄与するとともに、消化管から血流へ吸収されて循環器系の機能改善をもたらすことが期待される。
今回の研究の知見から、口腔細菌による亜硝酸塩産生活性が合目的的に調節されていることが明らかになった。さらに、これらの知見は、口腔・全身疾患の予防効果を高める方法の開発に有用であると考えられる、と研究グループは述べている。
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