COVID-19ではインターフェロン応答が顕著に抑制、そのメカニズムは?
東京大学医科学研究所は9月7日、ウイルス感染に対する免疫応答の中枢を担うインターフェロン産生を抑制する新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のタンパク質「ORF3b」を発見したと発表した。この研究は、同研究所附属感染症国際研究センターシステムウイルス学分野の佐藤准教授の研究グループによるもの。研究成果は、英国科学雑誌「Cell Reports」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
2020年9月現在、全世界におけるSARS-CoV-2の感染者は2000万人以上、死亡者は80万人以上いるといわれている。世界中でワクチンや抗ウイルス薬の開発が進められているが、2019年末に突如出現したこのウイルスについては、不明な点が多く、感染病態の原理についてはほとんど明らかになっていない。
過去の研究では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染者の解析から、同感染症の特徴のひとつとして、ウイルス感染に対する生体防御の中枢を担うインターフェロンという物質の産生が、インフルエンザやSARSなどの他の呼吸器感染症に比べて顕著に抑制されていることが明らかとなっている。このインターフェロン産生の抑制がCOVID-19の病態進行と関連すると考えられているが、その原理については明らかとなっていない。
SARS-CoV-2のORF3b、SARS-CoVよりも強いインターフェロン阻害活性
今回、研究グループはまず、SARS-CoV-2とSARSウイルス(SARSCoV)それぞれが保有する遺伝子の長さを比較した。その結果、SARS-CoVに比べ、SARS-CoV-2の遺伝子ORF3bの長さが顕著に短いことを見出した。
これまでに、SARS-CoVのORF3b遺伝子には、インターフェロン産生を抑制する機能があることが知られていた。そこで、遺伝子の長さの違いが、SARS-CoV-2感染時のインターフェロン産生を抑制する機能と関連している可能性を疑い、SARS-CoV-2のORF3bの機能解析を実施。その結果、SARS-CoV-2のORF3bタンパク質は、SARS-CoVのORF3bタンパク質よりも強いインターフェロン阻害活性があることを見出したという。
また、コウモリやセンザンコウで同定されている、SARS-CoV-2に近縁なウイルスのORF3bタンパク質についても同様に解析した結果、SARS-CoV-2のORF3bタンパク質と同様、強いインターフェロン阻害活性があることが明らかになった。
ORF3b変異体、世界で流行中のSARS-CoV-2のORF3bより強いインターフェロン抑制効果
続いて、公共データベースGISAIDに登録された1万7,000以上の世界で流行しているウイルスの配列を網羅的に解析し、エクアドルでORF3bの長さが部分的に伸長している配列を持つウイルスを同定。この配列を再構築し、実験を行った結果、このORF3b変異体は、世界で流行しているSARS-CoV-2のORF3bに比べ、より強いインターフェロン抑制効果を示すことが判明した。
研究グループがこのウイルスを同定したエクアドルの医師にコンタクトを取ったところ、このウイルスに感染していた2人のCOVID-19患者は、2人とも重症であり、うち1人は死亡していたことがわかったという。
変異体、強毒株として流行する可能性は極めて低く
以上の結果から、新型コロナウイルスのORF3bタンパク質には強いインターフェロン抑制効果があり、それがCOVID19の病態と関連している可能性があることが示唆された。また、現在の流行の中で出現したORF3b遺伝子の変異によって、インターフェロンを抑制する活性が増強されることが明らかになった。
しかし、このウイルスの病原性が強まっていることを示す証拠はない。このような変異体は、1万7,000以上の配列を解析し、わずか2配列しか検出されなかった。このことから、このような変異体が出現し、強毒株として流行する可能性は極めて低いと考えられる、としている。
一方で、試験管内での実験では、このORF3b変異体のインターフェロン阻害活性は顕著に高いことから、ウイルス遺伝子の配列を解析することによって、ウイルスの病原性を評価する指標のひとつとして使用できる可能性はあると考えている、と研究グループは述べている。
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・東京大学医科学研究所 プレスリリース