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鏡-緒方症候群の筋肉異常はRTL1の過剰発現で発症、マウスで実証-東京医歯大ほか

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2020年09月04日 AM11:45

鏡-緒方症候群は父親性2倍体によるゲノムインプリンティング疾患

東京医科歯科大学は9月1日、ゲノムインプリンティング疾患であるテンプル症候群と鏡-緒方症候群における筋肉形態異常がそれぞれRTL1遺伝子の欠損あるいは過剰発現によることを、マウスモデルを用いて実証したと発表した。この研究は、同大難治疾患研究所エピジェネティクス分野の石野史敏教授の研究グループが、東海大学の金児-石野知子教授および国立精神・神経医療研究センターおよび日本医科大学との共同研究で行ったもの。研究成果は、「Development」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

鏡-緒方症候群はヒト14番染色体の父親性2倍体により引き起こされるゲノムインプリンティング疾患で、指定難病の1つ。羊水過多、胎盤過形成、肋骨形態異常を伴う呼吸不全による新生児致死、腹直筋乖離、重度の精神遅滞などを示す重篤な疾患だ。一方、テンプル症候群は母親性2倍体により引き起こされ、成長遅延、筋緊張低下、乳幼児期の摂食困難、思春期の早発を示す疾患。これまでに石野史敏教授の研究グループは東海大学、国立成育医療研究センターとの共同研究によりRTL1の過剰発現が鏡-緒方症候群の症状の1つである胎盤過形成に関わることを報告している。しかし、この疾患の患者に見られる新生児致死は肋骨形態異常と関係した呼吸不全と推測されるものの、その原因は不明であり、治療法も対処療法しかないことが問題だった。

胎児・新生児期の筋肉のみで発現するRTL1の過剰発現で発症

今回、研究グループは、Rtl1欠損マウス、Rtl1過剰発現のマウスがそれぞれテンプル症候群、鏡-緒方症候群と同様の症状を示すことを発見。また、それに関連する筋肉構造の異常をつきとめた。モデルマウスではRtl1領域だけを欠失させた。父親から欠失が伝わるとRtl1 mRNAが発現せずRtl1欠損マウスとなり、母親から欠失が伝わると、 mRNAを分解する機能を持つ母親性発現ノンコーディングRNAのantiRtl1が発現せず過剰のRtl1 mRNAが蓄積する。結果、このモデルでは、Rtl1欠損および過剰発現のどちらもマウス新生児で呼吸に重要な肋間筋、横隔膜、腹壁の筋線維の構造異常(直径が小さくなる、または大きくなる)が生じていた。組織を固定すると、過剰発現では異常な筋線維の収縮が起こり筋膜から剥離される異常が見られた。

Rtl1は筋肉の幹細胞である筋衛星(サテライト)細胞の増殖・分化の制御に関わり、これから分化する筋芽細胞ではRtl1欠損および過剰発現のどちらでも構造の脆弱化が見られた。また、RTL1タンパク質は筋線維の強化や収縮に関わるデスミンタンパク質と共局在しており、この過程に関係している可能性が示唆された。Rtl1は筋肉では胎児期から新生児期にかけて時期特異的に発現すること、すなわち大人の筋肉には発していないので、この時期の筋肉に特異的な機能を与えていると考察された。

RTL1を標的とした新規治療法開発に期待

今回の研究により、RTL1の過剰発現が鏡-緒方症候群の発症を引き起こす主原因と考えられた。RTL1が発生途中の胎児筋肉に影響を及ぼすこと、呼吸に関係する筋肉組織の異常が呼吸不全による新生児致死の原因と考えられることから、今後はRTL1を標的とした同疾患の新規治療法開発につながることが期待される。一方、RTL1は哺乳類だけが持つ獲得遺伝子で、レトロウイルス様のタンパク質をコードする外来の獲得遺伝子だ。この研究は鏡-緒方症候群、テンプル症候群の病態解明のみならず、なぜ哺乳類では胎児・新生児期の筋肉だけにRTL1遺伝子が発現するのかという、おそらく哺乳類の胎生と関係した発生生物学および進化学にも新しい知見を提供するものといえる。

研究グループは、「母親の胎内で長期間育つ胎児や生まれたての子供で筋力が弱いのは、母親・赤ちゃん双方にとって有利なことなのではないか?このような胎生への適応としてデスミンタンパク質が完全に発揮できないようにセーブするため、RTL1が機能するのではないか」という仮説を、提唱している。

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