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PD-1/PD-L1阻害薬の治療効果を高精度に予測するバイオマーカーを同定-国がんほか

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2020年09月02日 AM11:45

腫瘍組織のPD-L1発現や体細胞変異は必ずしも治療効果と相関しない

国立がん研究センターは9月1日、免疫チェックポイント阻害薬の治療効果を予測するバイオマーカーを同定し、さらにその測定・検出方法を開発したと発表した。この研究は、同センター研究所 腫瘍免疫研究分野、および先端医療開発センター 免疫TR分野の西川博嘉分野長(名古屋大学大学院医学系研究科 微生物・免疫学講座 分子細胞免疫学 教授併任)と、同研究所 細胞情報学分野の間野博行分野長、同東病院の土井俊彦副院長、名古屋大学大学院医学系研究科 臨床医薬学講座 生物統計学の松井茂之教授、株式会社日立製作所らの研究グループによるもの。また、バイオマーカー同定は、小野薬品工業株式会社との共同研究として実施し、同定したバイオマーカーの測定方法は日本べクトン・ディッキンソン株式会社(日本BD)と共同開発した。研究成果は、「Nature Immunology」電子版に掲載されている。


画像はリリースより

PD-1/PD-L1阻害剤によるがん治療は、悪性黒色腫、肺がん、胃がんをはじめとしたさまざまながん種に奏効することが報告された後、臨床現場にがん治療の新たな柱として導入され、がん治療にパラダイムシフトをもたらした。しかしながら、治療を受けた患者の半数以上がPD-1/PD-L1阻害剤治療に反応しないため、治療効果を精度高く予測するバイオマーカーの同定が必要とされてきた。腫瘍組織におけるPD-L1の発現や腫瘍細胞の体細胞変異が有用な効果予測バイオマーカーの候補とされているが、必ずしも、治療効果と相関するわけではなく、効果予測性能の高い新規バイオマーカーの同定が待たれていた。

PD-1/PD-L1阻害剤治療では、(CD8陽性T細胞)に発現するPD-1にPD-L1が結合し、エフェクターT細胞の活性を妨げることで抗腫瘍免疫応答が阻害される。このことから、PD-1/PD-L1経路(結合)を遮断することで抗腫瘍免疫応答が回復し、腫瘍は小さくなると考えられる。最近の研究からPD-1/PD-L1阻害剤による治療が奏効するためには腫瘍微小環境中にがん抗原を認識して活性化するPD-1陽性エフェクターT細胞が必要である可能性が示唆されている。しかし、実臨床でPD-1陽性エフェクターT細胞の量を測定するのに必要な大きさの腫瘍組織を収集することは困難である場合も多く、腫瘍浸潤リンパ球を効果予測バイオマーカーとすることは困難だった。

技術課題を克服し、腫瘍浸潤リンパ球の測定・検出方法を開発

研究グループは、2016~2019年に国立がん研究センター中央病院または東病院で進行固形がんと診断されPD-1/PD-L1阻害剤()で治療を実施された悪性黒色腫(12例)、肺がん(27例)、胃がん(48例)患者を対象として、探索コホート(39例)と検証コホート(48例)の2コホートを設定。探索コホートでPD-1/PD-L1阻害剤治療効果予測バイオマーカーを探索した。また、検証コホートとして当該バイオマーカーを検証した。これらの患者の中で、PD-1/PD-L1阻害剤治療の最良治療効果判定が「完全奏効、部分奏効、6か月以上の病勢安定」であるものを治療奏効例、それ以外の「6か月以内の病勢安定、病勢進行」を治療不応例と定義した。腫瘍組織に発現するPD-L1は免疫染色、腫瘍ゲノムにおける体細胞変異数は次世代シークエンサーで解析した。

また腫瘍浸潤リンパ球の免疫学的な特徴を評価するために、日本BDと共同開発した手法を用いて、治療開始2週間前以内に腫瘍組織生検検体を採取し、腫瘍浸潤リンパ球を抽出し、フローサイトメトリーで解析。この開発手法により、解析に必要な十分量の腫瘍浸潤リンパ球を腫瘍組織生検検体から効率的に調製することが可能となった。

探索コホートで腫瘍細胞のPD-L1陽性とPD-1治療奏効の相関を検討したところ、PD-L1陽性患者の中でも治療不応例も認められ、逆にPD-L1陰性患者の中にも治療奏効例が認められたことから、PD-L1は十分なバイオマーカーとは結論できないことが示された。

そこで、フローサイトメトリーを用いて腫瘍浸潤リンパ球を免疫学的に解析したところ、治療奏効例で腫瘍浸潤エフェクターT細胞上のPD-1発現が有意に高く、また、腫瘍浸潤エフェクターT細胞上のPD-1発現が高い群では低い群と比較して無増悪生存期間は有意に長い結果となった。

腫瘍浸潤CD8T/TregのPD-1陽性率の比が治療効果を最も予測

治療奏効例で腫瘍浸潤エフェクターT細胞上のPD-1発現が有意に高かったものの、一部の症例では腫瘍浸潤エフェクターT細胞上のPD-1発現が高くてもPD-1/PD-L1阻害剤治療が奏功しなかったことから、さらなるバイオマーカー探索を続行。以前に同研究グループは、抗腫瘍免疫応答を抑制する制御性T細胞が腫瘍環境下でPD-1を高発現していることがPD-1阻害剤治療後の急激な増悪に関わることを報告した。そこで、腫瘍浸潤制御性T細胞上のPD-1発現に焦点を当て、PD-1/PD-L1阻害剤治療奏効の関連を検討した。その結果、エフェクターT細胞とは反対に、治療不応例で腫瘍浸潤制御性T細胞上のPD-1発現が有意に高く、また、腫瘍浸潤制御性T細胞上のPD-1発現が高い群では低い群と比較して無増悪生存期間は有意に短い結果となった。

エフェクターT細胞と制御性T細胞上のPD-1発現がPD-1/PD-L1阻害剤の治療効果と相関することが示されたが、他の免疫細胞および分子の治療効果との相関も検討するため、114項目のパラメーターについてディープラーニングを用いて治療効果の判定に関連する重要因子を特定。その中で、PD-1陽性エフェクターT細胞(PD-1陽性CD8陽性T細胞)とPD-1陽性制御性T細胞のペアが上位1位にランキングされた。以上のことからこれらの2つの因子がPD-1/PD-L1阻害剤の治療効果予測に極めて重要であることが明らかになった。

PD-1/PD-L1阻害剤の治療効果阻害剤治療の効果予測バイオマーカーをより詳細に探索するために、腫瘍浸潤リンパ球をフローサイトメトリーで解析した結果得られた114項目のパラメーターを基にしてAIによる機械学習をさらに実施したところ、腫瘍浸潤エフェクターT細胞に発現するPD-1陽性率と制御性T細胞に発現するPD-1陽性率の比率が、PD-1/PD-L1阻害剤の治療効果阻害剤治療の治療効果を最も予測するバイオマーカーとして同定された。AIによる機械学習により同定されたバイオマーカーを基にして、腫瘍浸潤エフェクターT細胞上にPD-1が40%以上発現し、かつ、腫瘍浸潤制御性T細胞よりエフェクターT細胞優位にPD-1が発現するグループをGroup Rと定義した。探索コホートのGroup Rでは無増悪生存期間は有意に長い結果となった。また、この結果は検証コホートでも検証され、非常に有用なバイオマーカーとなる可能性が示唆された。

以上の結果から、今回研究グループが同定したバイオマーカーは、腫瘍組織のPD-L1発現や腫瘍細胞の体細胞変異数など、これまで報告された治療効果予測バイオマーカーと比較して、より高精度にPD-1/PD-L1阻害剤治療の効果を予測できる可能性が示唆された。

バイオマーカーの臨床的有用性を検証する臨床試験を経て個別化医療実現へ

今回の研究により、腫瘍浸潤エフェクターT細胞と制御性T細胞上のPD-1発現バランスがPD-1/PD-L1阻害剤治療の治療効果と相関しており、これらを測定することで高い精度で治療効果を予測できることがわかった。このバイオマーカーは、PD-1/PD-L1阻害剤治療を実施した肺がんおよび胃がん以外の進行固形悪性腫瘍患者サンプルの解析においても、エフェクターT細胞上のPD-1発現がより高く、制御性T細胞上のPD-1発現がより低い症例でPD-1/PD-L1阻害剤治療が奏効することが確認された。また、今回開発した、腫瘍組織生検検体から腫瘍浸潤リンパ球を調製する手法が実用化可能であることも示された。

これまで、PD-1/PD-L1阻害剤治療はさまざまながん種において、治療効果が証明されてきた。その一方で、これまでの臨床試験の結果、がん種によってはPD-1/PD-L1阻害剤治療の有用性を証明されなかった例もある。この一因として、有用な治療効果予測バイオマーカーがなかったことが挙げられる。さらに肺がんなどの治療においては、PD-1/PD-L1阻害剤単剤で治療効果が得られる可能性がある患者も適切なバイオマーカーが存在しないため、有害事象の発生頻度が高くなるがん免疫併用療法が実施されているのが現状だ。

研究グループは、今後、臨床での実用化に向けて臨床試験に展開していくことを目指すという。今回同定された治療効果予測バイオマーカーを今後使用することで、PD-1/PD-L1阻害剤治療の効果が期待できる症例の高精度な予測、ひいては、より精密な個別化医療の実現が期待できる。国立がん研究センターでは、新たに開発した測定方法を用い、臨床での検証を進めるとしている。

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