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サリドマイドの催眠作用と催奇形性は、異なるメカニズムで生じると判明-筑波大ほか

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2020年09月01日 AM11:45

難病への改善効果やHIV感染症への有効性などで再評価が進むサリドマイド

筑波大学は8月31日、・鎮静薬サリドマイドの催眠作用が、催奇形性をもたらす分子メカニズムには非依存的であることを証明したと発表した。この研究は、同大大学院生命システム医学専攻博士課程の廣瀬優樹氏(研究当時、現:筑波大学附属病院麻酔科)、)のKaspar Vogt准教授、船戸弘正客員教授、柳沢正史機構長/教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)」誌にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

サリドマイドはそれまでの睡眠導入剤と異なり、レム睡眠を抑制せず、より自然な眠りを誘導する睡眠・鎮静薬として、1950年代に発売された。ところが、四肢形成不全(アザラシ肢症)などの深刻な催奇形性が明らかとなったため、一度は市場から撤退した。一方、その後の臨床研究で、ハンセン病や多発性骨髄腫などの難病に著しい改善効果を示したことや、その抗腫瘍効果でHIV感染症への有効性も認められ、近年ではその再評価が進んでいる。

先行研究では、サリドマイド結合因子としてセレブロン分子が同定され、これにサリドマイドが結合することによりタンパク質分解系であるユビキチン・プロテアソーム系の機能が損なわれることで、催奇発生が誘導されることが示された。サリドマイドはマウスなど齧歯類に対しては催奇形性がないが、マウスのセレブロンにはヒトセレブロンと同等のサリドマイド結合性と機能があることが示されており、催奇形性の違いは、セレブロンの下流のシグナリングの種差によると考えられている。しかし、サリドマイドの催眠作用の分子メカニズムは、これまでほとんど調べられていなかった。そこで研究グループは、セレブロンを介した系路が睡眠誘発作用にも必須であるか否かについて検討を行った。

サリドマイドが眠りを誘発するためにセレブロンに結合する必要はないと判明

研究では、マウスを用いた実験系を用いて、サリドマイドの催眠効果について詳細に検証した。野生型マウス(C57BL/6N系統)に対して、サリドマイドを暗期開始時に腹腔内投与し、脳波から睡眠-覚醒パターンを解析したところ、レム睡眠に対する効果はみられなかった一方で、深いノンレム睡眠の増加が用量依存的に観察された。また、脳スライスを用いた鎮静効果の電気生理学的立証実験では、サリドマイドの存在下で自発的な興奮性神経細胞の活動が抑制されたが、抑制性神経細胞の活動には影響を与えなかったという。

次に、変異型セレブロンをもつ遺伝子改変マウス(Crbn YW/AA ノックインマウス)を作成。変異型セレブロンは、384番目と386番目のアミノ酸が置換されていることにより、サリドマイドと結合せず、サリドマイドが存在していても正常にユビキチン・プロテアソーム系が機能する。この変異型マウスにもサリドマイドを投与し睡眠判定を行ってみると、野生型と同程度のノンレム睡眠増加がみられた。電気生理学的指標も野生型と同じように観察され、サリドマイドによって興奮性神経細胞間のシナプス伝達が抑制されるという結果を得た。

これらの実験結果から、サリドマイドが眠りを誘発するためにはセレブロンに結合する必要がなく、催奇形性を誘発するユビキチン・プロテアーゼ系を介さない、独立した作用メカニズムが存在することが示された。

今後、より安全な睡眠薬が開発できる可能性

今回の研究成果により、サリドマイドの催奇形性作用を担っているセレブロンは、睡眠誘発作用には関与していないことがわかった。

「今後の研究により、セレブロンと結合しないサリドマイド誘導体の合成が可能になれば、将来的に副作用の少ない、より安全な新規睡眠薬が開発されると期待される」と、研究グループは述べている。

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