母子だけでなく父親も対象に産後のメンタルヘルスを調べた初の全国規模調査
国立成育医療研究センターは8月27日、産後1年間の夫婦が同時期に「メンタルヘルスの不調のリスクあり」と判定される世帯は全体の3.4%に達し、2019年の出生数86.5万人を基準にすると、夫婦が同時期に苦しんでいる可能性のある世帯は3万世帯弱と推計されたことがわかったと発表した。これは、同センターの所竹原健二室長、加藤承彦室長、須藤茉衣子研究員の研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
近年の国内外の研究で、産後は母親だけでなく父親もメンタルヘルスの不調になりやすい時期であることがわかってきた。これまで、父親か母親のいずれかを対象とした研究が多く実施され、メンタルヘルスの不調の発生頻度やリスク因子、その不調がもたらす悪影響などが検討されてきた。しかし、夫婦を対象に世帯単位でメンタルヘルスの状態を評価する研究は少なく、また日本を代表できるような対象集団を用いた調査・解析は行われていなかった。
今回の研究では、全国から対象世帯が無作為に抽出される国民生活基礎調査の2016年のデータを用いて、生後1歳未満の子どもがいる二人親世帯(核家族以外も含む)3,514世帯を抽出。メンタルヘルスの評価ツールであるK6という指標を用いて、夫婦が同時期に「メンタルヘルスの不調のリスクあり」と判定される世帯の実態を調査した。
同時期不調の要因に産後の父親の長時間労働、更なる働き方改革推進が重要
その結果、夫婦が同時期に「メンタルヘルスの不調のリスクあり」と判定される世帯は全体の3.4%に達した。2019年の出生数86.5万人を基準に考えてみると、一時的な不調も含めて、夫婦が同時期に苦しんでいる可能性のある世帯は 3 万世帯弱と推計された。また、夫婦が同時期に「メンタルヘルスの不調のリスクあり」と判定される世帯になる関連要因として、父親の長時間労働、母親の睡眠不足、子どもの月齢(6~12か月の方が0~5か月よりもリスクが高い)、世帯支出の多さが示唆された。
夫婦が同時期にメンタルヘルスの不調になってしまうと、養育環境も著しく悪化しやすくなり、その世帯全体に大きな影響が生じることが懸念される。そうした状況を防ぐためにも、産後のケアや支援の対象は母子だけに限定するのではなく、父親も含めた世帯全体にし、アセスメントしていくことが重要だと考えられる。
近年、日本では働き方改革の議論が進み始めており、特に子どもが幼い時期は、父親の長時間労働が母親や子どもの健康や成長に影響を与える可能性があり、さらなる改革が急務であると考えられる。「2020年度から厚生労働省は父親支援に関する研究班を設置し、当研究グループはその班員として活動している。少しでも父親支援が推進できるような知見を提供できるよう努めていきたい」と、研究グループは述べている。
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・国立成育医療研究センター プレスリリース