SReFT解析を用いて、COPDの長期病態進行を推測
千葉大学は8月27日、独自の解析法を用いて30年程度の慢性閉塞性肺疾患(COPD)の病態進行を推定し、COPD患者は、生涯にわたり生活の質(QOL)が一貫して悪くなること、また、禁煙によりQOLの悪化の速度も半分程度になることが確認されたと発表した。これは同大薬学研究院の樋坂章博教授らと、慶応義塾大学医学部の研究グループの共同研究によるもの。研究成果は、「Journal of Clinical Medicine」にオンライン公開されている。
画像はリリースより
日本において500万人以上の患者が潜在しているといわれる進行性の慢性疾患で、生涯にわたり治療や疾患管理が必要になる。これまでCOPD患者のQOLは、1.5年程度の短い時間では十分な変化が認められないなどの事例があり、COPDの疾患の評価や治験の主要評価項目などには肺機能検査値が汎用されてきた。一方で、COPDは罹患期間が生涯に渡る慢性呼吸器疾患であることから、近年ではCOPDの重症度評価は、肺機能検査値だけでなくQOLも含めて評価する必要性が盛んに述べられている。しかし、QOLを考慮に入れた長期的な病態進行推測の方法は未だ確立されていない。
そこで研究グループは、短期間データから長期推移を推定する新しい解析法である「SReFT解析」(Statistic Restoration of Fragmented Time-course)を用いて既存の臨床試験結果を解析することにより、QOLおよび肺機能の長期病態進行を推測することを目的に研究に取り組んだ。
QOL悪化を示すスコアは罹患して数十年間も増加
COPD患者を対象とした国際共同治験SUMMIT試験に参加し、プラセボの投与を受けた1,025人のデータを解析に用いた。評価の指標には、SGRQ、CATスコア、%FEV1、%FVCの4つを用いて、COPD発症から30年程度の変化についてSReFT解析した。なお、SGRQとCATスコアは、COPDにおける健康関連のQOL評価指標であり、スコアが大きいほどQOLが悪化していることを意味する。また、%FEV1と%FVCは、肺機能を示す指標で、数値が低下するほど、肺機能が低下していることを示す。
解析の結果、QOLの指標としたSGRQおよびCATスコアは、病態進行に伴う明らかな増加が認められた。肺機能検査値については、%FEV1は罹患後すぐに減少傾向が認められたものの、疾患時間が10年以上になると減少は鈍化。また、%FVCの大きな変化は認められなかった。
この解析結果から、COPD発症により肺機能は比較的早期に下げ止まる可能性があること、また下げ止まった患者でも、生涯にわたりQOLの悪化が続くことが、初めて明確にわかった。つまり、COPDの病態進行評価には、QOLを積極的に確認することが重要だと考えられるという。
禁煙により病態進行を約半分程度に遅らせることが可能
研究グループはさらに、喫煙状況が病態進行に与える影響を調べるため、患者を現喫煙者と前喫煙者に分けて長期病態進行に違いが認められるか調べた。その結果、禁煙することでQOL悪化の進行速度を約半分程度に遅くさせることが可能であると考えられた。すでに禁煙は肺機能の悪化を抑制し、COPD予防・治療において非常に重要であることは知られているが、それでも禁煙を希望しない患者がいる。今回の研究で明らかになったように、将来的に大きなQOLの差になることを理解した上で、禁煙をより強く推奨していくことが重要だ。
樋坂教授は、「研究により、長期病態進行におけるQOL評価の有用性が改めて示され、これまで中心的に扱われてきた肺機能検査に加えて、QOL評価をより実施していく必要がある。また、禁煙の効果についても数十年後の違いを定量的に推定しており、患者の禁煙推進の一助となると思う」と、述べている。
▼関連リンク
・千葉大学 ニュース