脂肪細胞のオートファジーは老化に伴いどう変化?
大阪大学は8月20日、生活習慣病を予防する働きのある脂肪細胞において、加齢に伴いオートファジーが過剰となった結果、脂肪細胞の機能を低下させて生活習慣病を引き起こすこと、その背景にあるメカニズムを明らかにしたと発表した。これは、同大大学院医学系研究科の山室禎研究生(遺伝学)、医学系研究科兼生命機能研究科の吉森保教授(遺伝学/細胞内膜動態研究室)のグループと、医学系研究科の下村伊一郎教授(内分泌・代謝内科学)らと共同研究によるもの。成果は、「Nature Communications」に掲載されている。
画像はリリースより
老化によって脂肪細胞の機能が徐々に低下し、この機能低下が糖尿病や脂質異常症、脂肪肝といった生活習慣病の原因になることがこれまでの研究で明らかになっている。しかし、そのメカニズムは不明なままだ。オートファジーは、細胞内の構成成分を分解する仕組みであり、新陳代謝を担うことで細胞の健康を維持している。そのためオートファジーはさまざまな疾患を抑制しうることが明らかになっている。
研究グループの吉森教授らは以前に、「Rubicon」というオートファジーの抑制因子が肝臓や腎臓など多くの臓器で加齢に伴って蓄積し、オートファジーを低下させることで老化を促進していることを明らかにした。その一方で、脂肪細胞のオートファジーが老化に伴いどのように変化するか、その変化は生活習慣病の発症にどう影響するかは未解明のままであった。そこで今回、老化過程における脂肪細胞のRubiconに着目して研究を行った。
老化個体の脂肪組織でRubicon減少、オートファジー過剰
まず、老化個体の脂肪組織におけるRubiconの発現量を調べた。その結果、他の多くの臓器とは異なり、脂肪組織では加齢に伴いRubiconが顕著に低下していた。それに伴い、オートファジーが過剰になっていることも判明した。
次に、脂肪細胞でRubicon遺伝子を欠損させ、オートファジーを過剰にしたノックアウトマウスを作製。すると、このマウスは若齢にもかかわらず、痩せと耐糖能異常を示した。加えて、血中中性脂肪やコレステロールの増加、脂肪肝などの症状も示したことから、研究グループは、このマウスの症状は高齢者の痩せや生活習慣病と類似していると推察した。
さらに、脂肪細胞でオートファジーを抑制したマウスを老化させたところ、このマウスでは加齢性の脂肪肝が改善した。これらの結果から、脂肪組織のオートファジー過剰が高齢者の痩せや生活習慣病の原因となっており、これを抑えることで生活習慣病を治療しうることが示唆された。
オートファジー過剰<SRC-1/TIF2分解、減少<PPARγ低下<脂肪細胞機能低下
研究グループは、Rubiconを抑制してオートファジーを過剰にした脂肪細胞の遺伝子発現の解析を行った。その結果、「PPARγ」という脂肪細胞機能に必須のタンパク質の働きが低下していることがわかった。PPARγの発現量はRubiconを抑制しても変わらなかったため、PPARγの働きを助けることで知られるSRC-1とTIF2という2つのタンパク質について調べたところ、これらがオートファジーによって分解されていることが判明した。つまり、老化個体の脂肪細胞でRubiconが低下してオートファジーが過剰になると、SRC-1とTIF2が分解されて減少する。そのためPPARγの働きが弱まり、脂肪細胞の機能が低下して生活習慣病を引き起こすと考えられた。
また、個体が飢餓に晒された際にも、脂肪細胞のRubiconが減少してオートファジーを高め、SRC-1とTIF2が分解されることも確認した。これは脂肪細胞の機能を積極的に下げることで、脂肪細胞に貯蔵できなくなった栄養を、飢餓の際に他の細胞に利用させるためと考えられる。この機構は飢餓という有事のために存在しているが、老化によってこの機構が誤って働いてしまい、その結果、生活習慣病を引き起こすと考えられるという。
多くの臓器では老化に伴いオートファジーが低下するが、脂肪細胞では加齢に伴いオートファジーが過剰となり、生活習慣病の発症につながりうることが示された。今後、脂肪細胞のオートファジー阻害による生活習慣病の創薬が期待される。山室研究生は、「過ぎたるは猶及ばざるが如しという言葉の通り、オートファジーが高い方が良い、という潮流に一石を投じる結果だと考えている」と、述べている。
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・大阪大学大学院医学系研究科・医学部 研究成果