緊急事態宣言前の「第一波」の感染拡大期に限定して解析
近畿大学は8月20日、新型コロナウイルス感染症の日本の第一波のうち、北海道から沖縄までの28地域における感染拡大状況と気象データおよび大気汚染データを統計解析した結果、外気温が適度に高い、日照時間が長い、浮遊粒子状物質濃度が高いほど、感染拡大リスクが高いことを解明したと発表した。この研究は、同大医学部環境医学・行動科学教室の東賢一准教授を中心とした研究グループによるもの。研究成果は、国際雑誌「Environmental Research」に掲載されている。
画像はリリースより
新型コロナウイルス感染症は、2019年12月に中国で報告されて以来、瞬く間に世界的に大流行した。新たに出現した感染症のため、不明な点が多いが、人と人の近接時における飛沫感染や接触感染が主たる感染経路と考えられている。人を取り巻く環境を経由して人から人へ伝播していくことから、このような環境が感染に与える影響を解明することが重要だ。
同様の感染経路を有する季節性インフルエンザや風邪のウイルスでも気象や大気汚染との関係が報告されている。諸外国のこれまでの研究では、温度や湿度が上昇すると感染リスクが上昇する、あるいは逆に減少するなど、一貫した結果が得られていなかった。そこで今回、研究グループは、新型コロナウイルス感染症における流行拡大と気象、大気汚染との関係について研究を行った。日本の政府による緊急事態宣言で人の行動が大きく変容する前の第一波の感染拡大期に限定して解析を行い、入手可能な他の関連要因を解析で調整している。
「外気温が適度に高い」「日照時間が長い」「浮遊粒子状物質濃度が高い」ほど感染拡大リスクが高く
政府による緊急事態宣言前の2020年1月15日~4月6日までの日本の28地域における感染拡大状況と気象データおよび大気汚染データを統計解析した。解析にあたっては、流行拡大が始まった3月13日~4月6日までを5つの時期に区分して各地域における累積感染者数の上昇率を算出し、同じ時期における気象(温度、湿度、降雨量、日照時間、風速)と大気汚染濃度(一酸化窒素、二酸化窒素、光化学オキシダント、浮遊粒子状物質(SPM)、微小粒子状物質(PM2.5))との関係を縦断的に解析。また、他の関連要因として、各地域の人口指数や社会経済指数で調整した。なお、ウイルスへの感染時期と気象や大気汚染の測定時期が一致するように、症状の発症日やPCR検査での陽性確定日から感染時期を逆算して推定し、より厳密に感染と感染時の環境との関係が一致するように処理している。28地域は、札幌市、仙台市、富山市、金沢市、福井市、さいたま市、所沢市、川口市、東京都、千葉市、市川市、松戸市、船橋市、横浜市、川崎市、相模原市、名古屋市、岐阜市、京都市、大阪市、堺市、吹田市、神戸市、西宮市、広島市、福岡市、北九州市、那覇市であった。その結果、「外気温が適度に高い」「日照時間が長い」「浮遊粒子状物質濃度が高い」ほど、感染拡大リスクが高いことが明らかになった。
新型コロナウイルスは、肺よりも鼻腔で、ウイルスが結合するタンパク質であるACE2抗体の発現量が多く、新型コロナウイルスへの感染性が高いと考えられている。SPMは、PM2.5よりも鼻腔に対する沈着量が多い大きめの粒子が含まれている。今回の研究では、鼻腔への沈着量が多い大きめの粒子を含む浮遊粒子状物質で感染拡大リスクとの関係がみられたことから、人の気道域における新型コロナウイルスへの感染性と一致した関係となった。粒子の大きさと感染性との関係についても、今後さらに詳細に検討する必要があるとしている。
温かく晴れた日における人の行動増加が、感染拡大に関与している可能性
新型コロナウイルスの環境中での生存状況に関する実験結果からは、温度が高くなるとウイルスの生存率が低下すると報告されている。また、太陽光(紫外線)には新型コロナウイルスを死滅させる作用があることが報告されている。したがって、感染拡大に対する外気温の影響は直接的ではなく、温かく晴れた日に人の行動が増えたことが感染拡大に関与している可能性が高く、国民一人ひとりの行動における適切な感染予防策が重要だという。また、湿度に関しては、感染拡大リスクとの間に関係はみられなかった。
粒子状物質については、大気汚染が悪化している地域では、感染リスクが高まることが懸念される。メカニズムとしては、大気中の粒子状物質が新型コロナウイルスの気道感染リスクを上昇させる可能性が考えられる。大気中の粒子状物質の影響が重要となれば、大気汚染が悪化している地域では、外出時にマスクの着用などの予防策が重要となる。ただし、日本では粒子状物質の大気汚染濃度が低いこともあり、粒子状物質との関係については、今回の研究の解析結果では弱い可能性が高く、粒子状物質がより高濃度の地域での調査や、動物や細胞を用いた実験などで、因果関係をさらに明らかにする必要があるとしている。
季節性インフルエンザのような季節性を有する可能性は低く、あった場合も限定的
季節性インフルエンザは冬期の低温乾燥期に感染が拡大するが、新型コロナウイルス感染症もこのような季節性を有するかどうかを明らかにすることは、今後の感染予防策を検討するうえで極めて重要だ。今回の研究は限定された時期での解析ではあるが、他の既往研究ともあわせて考えると、季節性インフルエンザのような季節性を有する可能性は低く、あった場合も限定的であると考えられるという。
通年で感染拡大リスクを有するとなれば、医療体制の確保や感染予防策は年中重要で、生活や行動様式を変えていく必要がある。研究グループは、季節性を明らかにするためには長期間の研究が必要だとし、新型コロナウイルス感染症から公衆衛生を守るために、今後もさらなる研究を続けていきたい、と述べている。
▼関連リンク
・近畿大学 ニュースリリース