RAIT治療前のヨウ素の長期間の制限は有効か?
順天堂大学は8月20日、バセドウ病に対する放射性ヨウ素内用療法(radioactive iodine therapy、以下RAIT)における、ヨウ素制限と治療効果との関連について追跡調査を行った結果、慣例的に行われてきた治療前の1週間以上にわたる厳格な食事由来のヨウ素制限や、治療で用いるヨウ素の長期間の制限は不要であることがわかったと発表した。これは、同大大学院医学研究科代謝内分泌内科学の内田豊義准教授、綿田裕孝教授らの研究グループと、医療法人社団金地病院との共同研究によるもの。研究成果は、「Thyroid」に掲載されている。
画像はリリースより
バセドウ病は、日本人において甲状腺ホルモンの過剰分泌が原因でかかる病気の中で最も患者数が多い。RAITは、薬物療法、手術と並ぶバセドウ病の治療法の1つで、薬物療法や手術が困難な場合に行われる。この治療は、甲状腺ホルモンの原材料であるヨウ素が甲状腺組織に特異的に取り込まれる仕組みを利用した治療法であり、放射性ヨウ素をバセドウ病患者に投与して甲状腺組織を破壊することで、甲状腺ホルモンの分泌を抑える。
放射性ヨウ素をより効率的に吸収するため、体内のヨウ素は欠乏状態にあることが望ましいとされ、治療前10~14日間は、食事由来のヨウ素制限やバセドウ病治療薬として用いるヨウ素(無機ヨウ素)を制限する。しかし、元来日本人はヨウ素を豊富に摂取する食習慣があるため治療前の摂取制限の有効性は不明であり、また、バセドウ病治療薬の中止は、病状悪化を招くリスクがあった。RAIT前のヨウ素の制限が必要か否かについて詳細に検討している研究はなかったことから、今回、ヨウ素制限がRAITの治療効果にどの程度影響を与えるかを検討した。
食事由来のヨウ素は7日前、治療薬は5日前から制限
研究グループは、順天堂医院および甲状腺専門病院である金地病院で、放射性ヨウ素(131I 480MBq[13.0mCi])のRAITを行ったバセドウ病患者81例を対象に、1年後の治療効果を判定し、ヨウ素摂取量を含む治療前の患者背景因子と治療効果との関連を分析した。同研究のRAITでは、治療7日前から食事由来のヨウ素制限、5日前からバセドウ病の治療薬をすべて中止し、治療当日の甲状腺機能および尿から推定ヨウ素摂取量を算出、治療1年後の効果を判定した。RAITの治療効果は、1年後も抗甲状腺薬やヨウ素の使用を中止できない群を非寛解群、それ以外を寛解群と定義した。
RAIT治療効果、治療前の推定ヨウ素摂取量との関連を認めず
その結果、治療1年後の寛解率は56.8%であり、日本における平均的な寛解率と同等であった。非寛解群では寛解群と比較して有意に甲状腺が大きいものの、非寛解群と寛解群との間に推定ヨウ素摂取量の差異は認められなかった。しかし、推定ヨウ素摂取量が日本人の平均的な摂取量の倍以上(約600µg/日以上)である症例はすべて非寛解群に分類された。また、ヨウ素を含む治療薬の服用を5日間中止することによる患者への有害事象は認められず、治療薬の投与量とRAITの治療効果との間に関連性は認められなかった。このことからヨウ素治療は5日間の休薬で十分であると考えられた。
さらに、どのような因子が治療効果に影響を及ぼしているかを統計学的に検討した結果、治療効果へ影響を与える因子は甲状腺の大きさであり、推定ヨウ素摂取量や治療前ヨウ素治療は影響が少ないと考えられた。
ヨウ素制限の簡便化によるバセドウ病患者への負担軽減へ
以上の結果から、バセドウ病治療におけるRAIT前のヨウ素制限は、短期間かつヨウ素摂取量が過剰にならない程度のヨウ素制限で十分であることが明らかになった。バセドウ病に対する治療の簡便化による患者の負担軽減が期待できる。また、今回の結果は、元来ヨウ素充足国である日本にのみ適応した方法ではなく、ヨウ素摂取量が適正化された諸外国においても適応できる治療方法であり、汎用化も期待される。
「今後、バセドウ病に対するRAIT前のヨウ素制限の必要性そのものに関する検証が必要だと言える。また、本研究で明らかとなった治療効果を決定する因子は甲状腺の大きさであり、約4割強の患者は1年間で改善に導くことができていないことから、今後、甲状腺の大きい患者に対応する方策を模索し、検証することで、より確実な治療効果を得られる治療方法へと高めていきたい」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・順天堂大学 プレスリリース