NAFLDで腸管バリア機能が破綻する点に着目、腸管バリア改善機能をもつルビプロストンの効果を検証
横浜市立大学は8月20日、便秘症治療薬ルビプロストンによる腸管バリア機能の修復が、非アルコール性脂肪肝疾患(Nonalcoholic fatty liver disease: NAFLD)の治療に有効であることを示したと発表した。これは、同大医学部肝胆膵消化器病学教室の結束貴臣助教、中島淳主任教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Lancet Gastroenterology & Hepatology」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
飲酒習慣のない脂肪肝NAFLDの日本における患者数は約2000万人とされるが、肥満社会に伴いその罹患率は増加している。その約10~20%は進行型の非アルコール性脂肪肝炎(Nonalcoholic steatohepatitis: NASH)であり、これが原因で肝硬変や肝臓がんを発症すると、肝移植が必要となる。しかし、NAFLDに対する薬物治療は未だ確立されたものはなく、肝臓内の脂肪や炎症、線維化をターゲットとした薬剤の開発が進んでいる。
一方、NAFLD進行のメカニズムとして、腸内細菌が産生するエンドトキシン(毒素)の関与が報告されている。腸管壁のバリア機能が正常な状態ではエンドトキシンは腸管内に留まるが、NAFLD患者の場合、このバリア機能が破綻している(リーキーガット:Leaky gut)ため、エンドトキシンが血液中に流出し、NAFLDの増悪に関与するとされている。
便秘症治療薬の1つであるルビプロストンは、腸管バリア機能の改善効果が報告されているが、非便秘患者に対するルビプロストンの投与はこれまでに報告がない。研究グループは今回、安全性を考慮して、便秘症を合併するNAFLD患者を対象とし、ルビプロストン投与による腸管バリア機能の改善効果が有効であるかを検討した。
プラセボと比較して、肝機能マーカー、エンドトキシン、肝臓中の脂肪量・硬さ、腸管バリア機能が著明に改善
研究では、便秘症を有するNAFLD患者150人を、1日1回12週間、24μgまたは12μgのルビプロストンを内服する群とプラセボを内服する群の3群に分け、ランダム化、二重盲検、プラセボコントロール第2相試験を行った。有効性の評価は、血液中の肝機能マーカーやエンドトキシンを測定するとともに、MRエラストグラフィーを用いて肝臓中の脂肪量・硬さを測定した。腸管バリア機能はラクツロースマンニトールテストを行い、尿サンプルから測定した。
その結果、有効性評価では、ルビプロストン投与群において、プラセボ群と比較して肝機能マーカーやエンドトキシン、肝臓中の脂肪量・硬さ、腸管バリア機能が著明な改善を示した。特に、ルビプロストン投与群の中でも腸管バリア機能が改善したグループにおいては、肝機能マーカーや肝臓中の脂肪量・硬さ、NAFLDの増悪に関与する血液中のエンドトキシンの影響が明らかに減少した。一方で、ルビプロストン投与による腸内細菌叢の変化は認められなかったため、エンドトキシンの改善は腸内細菌の変化によるものではなく、腸管バリア機能の修復が関連していることの裏付けとなったという。
安全性評価では、試験全体で17%の患者に有害事象を認めた。一番多い有害事象は下痢(14%)だったが、生活に支障をきたすような重篤なものは認められなかった。ルビプロストン12μg/日投与群は、24μg/日投与群より有害事象が少なく、同等の有効性を示した。これらの結果は、ルビプロストンによる腸管透過性の改善効果が、NAFLD患者における肝機能改善に有効であることを示している。
NAFLD治療のターゲットに「腸管バリア機能の是正」が新たに加わる可能性
NAFLDでは、腸管バリアの破綻が起きていることが報告されているため、今後、便秘症を持たないNAFLD患者において、ルビプロストンの有効性と安全性を検討する必要がある。
研究グループは、「本研究の結果を受け、肝臓の脂肪、炎症、線維化といった、現在開発が進んでいるNAFLD治療のターゲットに腸管バリア機能の是正が新たな選択肢の1つとして加わる可能性がある。本研究ではルビプロストンの服用期間は12週間と短いため、今後はもう少し内服期間の長い研究が必要だ」と、述べている。
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・横浜市立大学 プレスリリース