体内で誘導される実際の免疫反応にT細胞の糖代謝は必要?
愛媛大学は7月29日、生体で免疫反応が起きるためには、T細胞の中での糖代謝が活性化することが必須であることを証明したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の山下政克教授らの研究グループによるもの。研究成果は、英国科学誌「Communications Biology」に掲載されている。
画像はリリースより
免疫系は、健康を維持するために必須の生体機能であり、その不具合は、がん、慢性感染症や自己免疫疾患などの慢性炎症疾患発症につながる。最近では、新型コロナウイルス感染によって引き起こされる免疫系の暴走(サイトカインストーム)が、症状の悪化を誘発することが知られている。
また、免疫系において、リンパ球の一種であるT細胞が、特に重要な働きを担っている。T細胞は、ウイルスなどの病原体、がん細胞、花粉といった体内の異物を認識して活性化し、直接、または、免疫系(他の免疫細胞)を指揮することで異物を排除している。細胞を用いた研究では、T細胞が活性化するためには、グルコース(ブドウ糖)やアミノ酸、脂肪酸などさまざまな栄養素を取り込み、それらを代謝(分解)してエネルギーを生み出すことが必要であることが報告されていた。特に、T細胞の活性化に伴って増加する糖代謝の重要性は、さまざまな研究から示唆されていた。しかし、体内で誘導される実際の免疫反応にT細胞の糖代謝が本当に必要なのかについては、証明されていなかった。
そこで今回、研究グループは、異物の侵入に伴うT細胞の糖代謝が、体内での免疫反応に必須であるかどうかを明らかにすることを目的に研究を進めた。
T細胞の糖代謝低下で免疫機能低下、慢性炎症疾患の症状は改善
研究グループは、細胞の中で糖代謝を動かす解糖系酵素の一つであるホスホグリセリン酸ムターゼ1(Pgam1)がT細胞で欠損したマウスを作製して解析。その結果、Pgam1が欠損したT細胞では、糖代謝が著しく低下し、生体内で機能がうまく発揮できないこと、T細胞の糖代謝は、体内での正常な感染免疫応答に必要であることが明らかになった。
また、自己免疫疾患やぜんそくモデルを用いて検証した結果、T細胞の糖代謝を低下させることで、過剰な免疫反応が原因となる慢性炎症疾患の症状が改善することがわかった。さらに、T細胞が持続的に糖代謝を行うためには、アミノ酸の一種、グルタミンが必要であることも判明したという。
免疫細胞の暴走による「サイトカインストーム」抑制法の確立にも期待
今回の研究成果により、T細胞の糖代謝が正常な免疫応答に必要であること、T細胞の糖代謝制限が自己免疫疾患やアレルギーの治療につながること、糖代謝を抑制できる物質が過剰な免疫反応を抑える免疫抑制薬の候補となりうることなどが示された。
今回の研究成果は、自己免疫疾患、アレルギー、生活習慣病などの慢性炎症疾患の治療薬や免疫を抑えて移植時の拒絶を緩和する薬の開発、免疫細胞の暴走で引き起こされるサイトカインストームの抑制法の確立につながることが期待される、と研究グループは述べている。
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・愛媛大学 プレスリリース