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iPS細胞を用いた皮膚移植モデルマウスを開発、制御すべき免疫反応を発見-北大

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2020年08月13日 PM12:45

HLA型が一致した組み合わせのiPS細胞移植における免疫反応を解析

北海道大学は8月12日、iPS細胞を利用した移植時に起こる免疫反応を再現するマウス皮膚移植モデルを開発したと発表した。この研究は、同大遺伝子病制御研究所の清野研一郎教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。

再生医療においては、さまざまな病気に対してiPS細胞から治療効果のある細胞を作製して移植する治療法があるが、それぞれの患者からiPS細胞を作製して、その後に移植片を作ると多くの時間が必要となる。そこで、実際に移植に用いるiPS細胞は、事前に作製して保管してある他人由来のiPS細胞の利用が計画されている。この場合、移植を受ける患者から見て他人の細胞を移植することになるため、移植を受けた患者の免疫細胞が移植した細胞を自分ではない異物として認識してしまい、移植片が拒絶されてしまう恐れがある。

そこで、拒絶反応が生じるリスクを低減するために、移植に用いるiPS細胞と移植を受ける患者の免疫細胞の型であるHLA(MHC)型(白血球型)を合わせて移植する「(MHC)型一致の移植」を実施することが予定されている。また、実際にはHLA以外にもマイナー抗原と呼ばれ、拒絶反応源となりうるタンパク質は体内に多数存在することが知られており、HLA型が一致した組み合わせのiPS細胞移植において、どのような免疫応答が生じ、どの程度の強さの拒絶反応が生じるかについてはこれまでに検証されていなかった。

今回、研究グループは、ヒトにおけるiPS細胞を利用した移植を想定して、それを再現するようなマウス皮膚移植モデルを新たに開発。さらに、このモデルを用いて、生じている免疫応答に関して解析し、拒絶反応が生じた場合に免疫抑制剤を用いることがどの程度有効であるかを検証した。


画像はリリースより

MHC型が一致でもマイナー抗原が不一致だと移植片は拒絶

研究グループは、iPS細胞を用いた移植を想定して、ドナーとレシピエントを組み合わせてマウス皮膚移植実験を実施。具体的には、一般的なヒトと近似し、MHCがヘテロであるC3129F1マウス(MHC型:b/k)をレシピエントに用いた。また、移植に利用することが想定されているiPS細胞と同様にMHCがホモであり、マイナー抗原が不一致となるC57BL/6マウス(同:b/b)またはCBAマウス(同:k/k)をドナーに用いた。

その結果、MHC型一致の移植であってもマイナー抗原が不一致となる移植では、移植片は拒絶されることが判明。さらに、MHC型一致の移植であってもドナーとレシピエントの組み合わせ次第では、MHC型の全く一致しない移植片を移植した場合と同じスピードで移植した皮膚が拒絶された。また、移植片には免疫細胞の一種類であるT細胞が浸潤していた。加えて、MHC型が一致していたとしてもマイナー抗原が不一致の場合はレシピエントのT細胞はドナーに対して反応することを示した。

抗体による拒絶リスクは低減の可能性、T細胞応答の制御が重要な課題

他にも拒絶の原因となることが知られている抗体に関して解析を行ったところ、MHC型が一致していれば移植した後に新しくドナーに対して抗体が作られていないことがわかった。そこで、T細胞を抑制できる免疫抑制剤を使用することで移植片の拒絶を防ぐことが可能であるかを検証。ドナーとレシピエントの組み合わせによっては免疫抑制剤を使用することで長期に渡って拒絶を抑制できる移植の組み合わせがあったが、免疫抑制剤を使用していたとしても拒絶を抑制できない組み合わせもあることが判明した。

これらの結果から、iPS細胞を利用した移植では、抗体による拒絶の危険性を低減できる可能性がある一方で、T細胞応答によって移植した細胞が拒絶されてしまう恐れもあることがわかった。つまり、iPS細胞を利用した移植においても免疫応答、特にT細胞の応答を制御することが重要な課題であることが示された。研究グループは、「今後は、今回開発した移植モデルを活用することによって、より適切な免疫の制御方法が開発されることが期待される」と、述べている。

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