65歳以上対象の「富山県認知症高齢者実態調査」から認知症の人を除いて分析
富山大学は8月7日、富山県の認知症高齢者実態調査を追加分析した結果、心臓血管疾患(狭心症・心筋梗塞)の既往のある人や教育歴が短い人で、難聴のリスクが増加することが判明したと発表した。これは同大地域連携推進機構地域医療保健支援部門長の関根道和教授、敦賀市立看護大学の中堀伸枝講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「BMC Geriatrics」に掲載されている。
画像はリリースより
高齢者の難聴は、生活上の不便だけでなく、他人との交流を避けて家に閉じこもる原因となることや、認知症発症や死亡率を上昇させることが知られている。補聴器等の使用により症状は改善するものの、根治的な治療法がないことから、予防が重要と考えられている。
今回研究グループは、平成26年に富山県が実施した「富山県認知症高齢者実態調査」を追加分析した。対象者は、県内の65歳以上の高齢者から0.5%無作為抽出された1,537人のうち、同意の得られた1,303人(同意率84.8%)。今回の分析では、不完全回答および認知症のある人を除いた1,039人を対象に、難聴の有無と、生活習慣病や社会経済的要因(教育歴)との関連性を評価した。
心筋梗塞・狭心症など心臓血管疾患がある人で、約2倍のリスク
その結果、対象者のうち126人(12.1%)に難聴が確認された。また、心臓血管疾患(狭心症・心筋梗塞)の既往のある人で難聴のリスクが増加することがわかった。
生活習慣病と難聴との関係では、心筋梗塞・狭心症(心臓血管疾患)の人の難聴に対する調整オッズ比(リスク指標)は1.86と統計学的に有意に上昇しており、約2倍のリスクがあると考えられる。また、脳卒中の人の難聴に対する調整オッズ比は1.57と上昇していたが、統計学的には有意ではなかった。高血圧、糖尿病、脂質異常は、調整オッズ比の上昇を認めなかった。
音は、内耳の蝸牛にある有毛細胞で感知される。その後、聴神経から大脳に伝達され、音として認識される。動脈硬化性の心臓血管疾患があり血流障害が発生する場合は、音の感知能力や認識能力が低下して難聴になることが推察されるという。
教育歴6年以下の人で、約3倍のリスク
また、教育歴の短い人でも難聴のリスクが高まることが判明した。教育歴10年以上の人を基準とした、教育歴6年以下の人の難聴に対する調整オッズ比は3.43であり、短い教育歴の難聴に対するリスクは約3倍となった。教育歴の短さは、喫煙などの望ましくない生活習慣や各種の生活習慣病になりやすいことが知られている。それらが最終的に難聴のリスクにつながると考えられる。
「今回の研究結果から、難聴を予防して高齢期を健やかに過ごすためには、若年期における十分な教育機会の確保や成人期における心臓血管疾患の予防など、小児期から高齢期の一生涯にわたる総合的な対策が重要であることがわかった」と、研究グループは述べている。
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