潰瘍性大腸炎におけるCD8T細胞の性状や遺伝子発現は?
順天堂大学は8月7日、潰瘍性大腸炎の新たな病態メカニズムを解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科 免疫病・がん先端治療学講座の波多野良特任助教、森本幾夫特任教授らと消化器内科学講座の石川大准教授らの研究グループが英国オックスフォード大学のAlison Simmons教授らとの国際共同研究として行ったもの。研究成果は、「Nature Medicine」のオンライン版に掲載されている。
難病指定疾患である潰瘍性大腸炎は、激しい下痢や血便、強い腹痛や発熱などを主な症状とし、増悪と寛解を繰り返す治癒が難しい自己免疫疾患。国内では、近年毎年1万人の新規患者が発生しており、現時点で20万人を超え、米国に次いで世界で2番目に多い状況となっている。免疫抑制剤や生物学的製剤の登場により、病状がおだやかになる寛解に至る率は飛躍的に向上したものの、小児や高齢発症患者には使用しづらく、さらに治療が長期に及ぶと、免疫を抑えることで懸念される感染症等の副作用や、医療費の高額化などの問題が発生するため、疾患メカニズムのさらなる解明と根本的な治療法の開発が求められている。
潰瘍性大腸炎では大腸の粘膜層に存在する免疫CD4 T細胞の異常とともに、免疫CD8 T細胞による組織障害の関与が考えられているが、どのような免疫反応がどのように炎症反応に関わっているのか不明だった。そこで研究グループは、潰瘍性大腸炎の病態メカニズムを明らかにする目的で、国際共同研究により患者の炎症部位に集積するCD8 T細胞の性状解析と遺伝子の発現解析を行った。
画像はリリースより
大腸常在メモリーCD8T細胞が著減、IL-26産生CD8Tおよび活性化CTLが増加
今回の研究では、オックスフォード大学病院で内視鏡検査を受けた潰瘍性大腸炎患者および健常者の大腸生検組織を用いた。大腸の組織から細胞を抽出し、細胞を分離するセルソーターを用いてCD8 T細胞を分取した後、シングルセルRNAシーケンスによりCD8 T細胞の遺伝子発現パターンを1細胞レベルで解析。腸管は食物由来の雑多な外来抗原やアレルギー起因物質、病原性微生物などに常に曝されている場所であり、全身の免疫系とは異なる特殊な免疫細胞によって独自の生体防御システムを備えていることが知られていたが、この解析により、大腸に局在するCD8 T細胞が14もの非常に多様な細胞集団を形成していることが明らかとなった。さらに、潰瘍性大腸炎と健常者の比較を行ったところ、潰瘍性大腸炎では大腸に常在するメモリーCD8 T細胞の割合が著しく減少していた一方で、IL-26を産生するCD8 T細胞と活性化した細胞傷害性CD8 T細胞の割合が大きく増加していることが判明。IL-26は免疫細胞が産生する炎症関連因子の一つで、これまでに主にCD4 T細胞によって産生されることが報告されていたが、大腸にはIL-26を産生するCD8 T細胞が存在し、潰瘍性大腸炎ではその細胞集団が著しく増加していることがわかった。
以上の結果から、炎症関連因子IL-26が大腸ではCD8 T細胞によっても産生されていることが初めて明らかとなり、潰瘍性大腸炎の炎症にIL-26が大きく関わっている可能性が示唆された。現在、T細胞が原因で慢性的な大腸炎を発症する潰瘍性大腸炎の病態を模倣したマウスモデルを用いて、大腸炎の発症・悪化にこのIL-26産生CD8 T細胞がどのように関わっているか、病態メカニズムの詳細な解析を進めている。
研究グループは、慢性的な皮膚炎症疾患である乾癬において、IL-26が炎症を悪化させる因子であることを明らかにしている。今回発見したIL-26産生CD8 T細胞の炎症における役割を明らかにすることで、治癒が極めて難しい潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患が発症・悪化するメカニズムのさらなる解明につながることが期待される。研究グループは、このIL-26の作用を抑制することができるヒト化抗体の作製を進めており、IL-26を標的とした難治性の自己免疫疾患・慢性炎症疾患に対する新たな治療法の臨床応用を目指していくとしている。
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・順天堂大学 プレスリリース