2019年12月にSSc-ILD、2020年5月にPF-ILDで適応追加承認
日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社は7月30日、「オフェブ(R)カプセル100mg・150mg」(一般名:ニンテダニブエタンスルホン酸塩、以下オフェブ)の適応追加に関するメディアセミナーを開催。「全身性強皮症という病気、その診断から最新治療まで」と題して日本医科大学リウマチ膠原病内科教授の桑名正隆氏が、「進行性線維化を伴う間質性肺疾患、その特徴と最新治療」と題して国立病院機構近畿中央呼吸器センター臨床研究センター長の井上義一氏がそれぞれ講演した。
オフェブは、特発性肺線維症(Idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)を適応として2015年8月に承認。その後、2019年12月に全身性強皮症に伴う間質性肺疾患(Systemic sclerosis-associated interstitial lung disease:SSc-ILD)、2020年5月に進行性線維化を伴う間質性肺疾患(Progressive Fibrosing Interstitial Lung Disease:PF-ILD)の適応追加が承認された。
SSc-ILD治療、オフェブが治療選択肢に加わり「より高い臨床効果に期待」
日本医科大学リウマチ膠原病内科教授
桑名正隆氏
指定難病である全身性強皮症(Systemic Scleroderma:SSc)は、皮膚および各種臓器の線維化と血管障害を特徴とする自己免疫疾患であり、膠原病の一種。国内におけるSScの患者数は約2.7万人(平成30年度衛生行政報告例)で、患者の9割以上が女性、30~50歳代に発症する患者が多いという特徴を有する。SScの合併症の一つであるILDは、SScの主な死亡原因であり、患者の生命予後に大きく影響するとされている。
桑名氏は、SSc診療における課題として「診断・治療介入の遅れ」を挙げる。講演では、「(SSc患者が)初発症状の出現から専門施設の受診までに平均で約3.4年、その間にSSc関連症状のために受診した病院数は約3.5施設であった」というデータを紹介し、「残念ながら早期診断ができていない状況」と述べた。SScの早期発見・診断に有用な所見として、冷たいものを触った時や緊張した時、寒い場所などで、指先が白色や紫色に突然変化する「レイノー現象」という症状や、手指腫脹、爪上皮出血点などを紹介し、このような症状からSScが疑われる場合には「速やかに専門医へ紹介し、早期診断につなげてほしい」と呼び掛けた。
今回のオフェブのSSc-ILDへの追加適応承認は、国際共同第III相試験であるSENSCIS試験の結果を受けてのものである。同試験の主要評価項目である、投与52週間の努力肺活量(FVC)の年間減少率はオフェブ群-52.4、プラセボ群-93.3で、オフェブは統計学的に有意に抑制した(群間差:41.0mL/年[95% CI 2.9-79.0]; p=0.04)。また、オフェブ群における投与中止に至った有害事象は50例に認められ、主なものは、下痢22例、悪心6例、嘔吐4例であった。
SSc-ILD治療では、呼吸機能の低下を抑えて病気の進行を遅らせることが目標となる。従来使用されてきた免疫抑制薬に加えて、今回オフェブが治療選択肢に加わったことについて、桑名氏は「免疫抑制薬とオフェブを使い分け、場合によっては併用することでより高い臨床効果が期待できる」と評価した。
「治療選択肢が増えたという点で、非常に重要」、今後はPF-ILDの認知度向上が課題に
国立病院機構近畿中央呼吸器センター臨床研究センター長
井上義一氏
200以上の肺疾患を包含するILDでは、ある時点において進行性の肺の線維化を呈すなどの共通の特徴がみられる症例(PF-ILD)がある。PF-ILDの代表的疾患として挙げられるのが、IPFである。IPFは、原因不明の慢性、進行性、線維化性の間質性肺炎である。主に高齢成人に多く発症する。IPF以外のPF-ILDにおいても、IPFに類似した臨床経過である肺の線維化、肺機能の低下や生活の質(QOL)の悪化が生じ、早期死亡につながることが知られている。具体例としては、関節リウマチ関連ILD、混合性結合組織病に伴うILDなどの自己免疫性ILD、特発性非特異性間質性肺炎や分類不能型特発性間質性肺炎などの特発性間質性肺炎、過敏性肺炎、じん肺などの職業環境性ILD、サルコイドーシスなど幅広い疾患が含まれる。このようなPF-ILDの特徴として、井上氏は「進行性の肺の線維化」「呼吸機能の低下」「呼吸器症状の悪化」の3つを挙げた。
PF-ILDの多くが希少疾患で患者数が少ないために、検証的な大規模臨床試験の実施が難しく、治療選択肢が限られていた。また、PF-ILDは難治性の疾患であるにもかかわらず効果的な治療選択肢がない、アンメットメディカルニーズの高い疾患であり、治療薬の開発が望まれていた。
「間質性肺疾患」の分類表。オレンジ色部分が進行性の線維化を伴うことが多いものを示す。
PF-ILD患者対象の国際共同第III相試験であるINBUILD試験では、主要評価項目である投与52週までのFVCの年間減少率において、オフェブ群-80.8、プラセボ群-187.8となり、オフェブは統計学的に有意に抑制した(群間差:107.0mL/年、95%CI:65.4-148.5、p<0.0001)。また、オフェブ群における重篤な有害事象は147例に認められ、主なものは肺炎24例、間質性肺疾患19例、急性呼吸不全16例であった。
井上氏は、今回オフェブがPF-ILDの適応追加承認されたことについて「治療選択肢が増えたという点で、非常に重要」とコメント。一方で、医師におけるPF-ILDの認知度の低さを課題として指摘し、今後、学会などを通じたPF-ILDの認知度向上に期待を寄せた。
▼関連リンク
・日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社 公式ウェブサイト