マクロライド系抗菌薬がどのように炎症抑制作用を発揮しているのかを明らかに
新潟大学は8月7日、抗生物質の1つであるマクロライド系抗菌薬・エリスロマイシンが、抗炎症作用をもつDEL-1を誘導し、肺炎と歯周炎を制御することを明らかにしたと発表した。これは、同大大学院医歯学総合研究科高度口腔機能教育研究センターの前川知樹准教授(新潟大学研究推進機構・研究教授)と前田健康教授および同研究科微生物感染症学分野の寺尾豊教授、歯周診断・再建学分野の多部田康一教授らと京都薬科大学、米国ペンシルベニア大学、ドイツドレスデン工科大学との国際共同研究によるもの。研究成果は、国際学術誌「JCI Insight」に掲載されている。
画像はリリースより
マクロライド系抗菌薬の1つであるエリスロマイシンは、抗菌作用とともに免疫の調整や炎症を抑える作用を持つとされており、肺炎や歯周炎などの粘膜疾患治療に対して頻用されている。また、新型肺炎(COVID-19)においてもマクロライド系抗菌薬の効果を示した臨床報告がいくつかなされている。しかし、マクロライド系抗菌薬がどのように炎症抑制作用を発揮しているのかは不明な点が多く、頻用による抗生物質が効きにくい耐性菌の増加が問題となっていた。
DEL-1は、好中球を制御することで炎症を抑える機能を持つ分子。研究グループはこれまでに、肺炎や歯周炎の共通な病態増悪因子が好中球であることを明らかにしている。そこで今回、エリスロマイシンが肺および歯肉でDEL-1を誘導し、炎症を抑えているのではないかと考え、研究を行った。
致死性肺炎のマウスにエリスロマイシンを投与、適切な濃度の5分の1で生存率上昇
肺炎を実験的に起こしたマウスにエリスロマイシンを投与すると、エリスロマイシン投与群ではDEL-1の産生が認められるとともに、好中球の減少および肺胞の形態維持が認められた。さらに、マウスに致死性の肺炎を起こしたモデルにおいては、エリスロマイシン投与により生存率が上昇することが明らかになった。生存率維持に必要な濃度は、抗菌薬として適切な濃度のおおよそ5分の1であることもあわせて示された。
続いて、歯周炎を引き起こしたマウスにエリスロマイシンを投与した結果、歯肉の炎症が抑えられていた。歯周炎は、歯を支える骨も溶かすことで歯を失う原因となるが、エリスロマイシンは骨の吸収も抑制していたという。さらに、歯肉と骨を詳しく調べてみると、歯のまわりの靭帯である歯根膜に、DEL-1の産生と好中球の減少が認められた。さらに、これらの炎症抑制作用がエリスロマイシンによるDEL-1誘導によって発揮されているものなのかを検討するために、DEL-1を産生しないDEL-1欠損マウスを用いて同様な実験を行った。すると、DEL-1欠損マウスでは、エリスロマイシンによる肺炎や歯周炎を抑える効果が認められなかった。また、DEL-1欠損マウスに作製したDEL-1を接種すると、炎症抑制効果が発揮されることが明らかになった。つまり、エリスロマイシンはDEL-1を生体内に誘導することで、好中球を主体とした炎症を抑えていることが示された。
DEL-1誘導による炎症抑制作用のみを有する新規薬剤の開発にも期待
続いて、どのようにエリスロマイシンが細胞に作用してDEL-1を誘導しているのかを調べました。これまでにDEL-1の誘導物質として、オメガ3脂肪酸のレゾルビン(RvD)およびステロイドホルモンであるDHEAが同定されており、経路も明らかとなっていた。しかし、エリスロマイシンがもつDEL-1誘導能は、これらより約3倍強いものであったため、異なるDEL-1誘導経路の可能性があると考えた。そこで研究グループが、血管内皮細胞のエリスロマイシン作用候補受容体を網羅的に検索したところ、エリスロマイシンはGrowth hormone secretagogue receptor(GHS受容体)に作用することを新規に見出した。GHR受容体下流の細胞内部の経路を解析すると、エリスロマイシンは、GHS受容体を介し、JAK2-MAPK p38経路を活性化することで、DEL-1の産生を誘導していることが明らかになったという。
今回の研究により、エリスロマイシンの免疫調節作用や、炎症を抑制する新たなメカニズムが解明された。この成果は、抗炎症作用を期待したエリスロマイシンの使用に関しての治療エビデンスを提供することとなり、今後は免疫炎症作用のみを誘導できる適正な濃度使用によって、耐性菌の減少につながることが期待される。研究グループは、「本研究におけるDEL-1誘導機構の解明により、DEL-1誘導による炎症抑制作用のみを有する新規薬剤の開発につながることもあわせて期待される」と、述べている。
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・新潟大学 研究成果