通院が困難な重度な精神疾患患者に対する新治療法を探索
米ダートマス大学は7月28日、重度な精神疾患がある患者の治療において、精神科医による電子メールでの介入が、臨床的に有効であるという研究成果を発表した。これは、同大心理学および脳科学部門のWilliam J. Hudenko博士、米ワシントン大学BRiTE CenterのDror Ben- Zeev博士らの研究グループによるもの。成果は、「Psychiatric Services」に掲載されている。
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米国では全成人の約19%(2017年)が診断可能な精神疾患を抱えていると推定されている。一方、通院診療は、時間的制限やアクセスの悪さ、費用などの理由により、患者のニーズを満たすことができない場合がある。さらに、現在のような新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミック下では、子どもを置いて診察に行けないといった環境にある親世代の定期診療が難しくなっている。
研究グループは、こうした通院治療が困難になった患者が治療を継続できる有効な手段を確立するため、スマートフォンなどのモバイル機器で受信する電子メールを用いた治療介入について、その有効性、実行可能性を検証する臨床研究を実施した。
ACTと電子メールによる介入で妄想的思考の重症度、抑うつ状態減少
研究は、3か月間にわたり49人の重度な精神疾患患者を対象に実施された。患者の62%が統合失調症または統合失調感情障害、24%が双極性障害、14%がうつ病であった。地域のACT(assertive community treatment、包括型地域生活支援プログラムの意)のみを受ける群と、ACTに加えて電子メールによる介入を受ける群(以下、メール介入群)にランダムに組み入れられ、開始前、開始3か月後、6か月のフォローアップ期間後に臨床転帰が評価され、満足度は治療後に評価された。
電子メールでの患者とのやりとりは、精神科の医師が担当。担当医はあらかじめ、どのようなメッセージを送るのが効果的か、どのように安全にメールを送るかについてトレーニングを受けていた。また、治療プロトコルが順守されているかを確認するため、医師が送った1万2,000通を超える期間中の電子メールはモニタリングされた。
メール介入群の患者の95%が介入を受け入れた。患者1人当たり1日平均4通、メール送信可能な日の69%で患者がメール送信をし、期間全体では165通以上のメールを送信し、158通以上のメッセージを受信した。その結果、有害事象は報告されなかったため、メール介入は安全であることが確認された。また、満足度に関しては、「メールのメッセージを受け入れられる」と91%が、また「気持ちが楽になった」と94%、さらに「友人に勧める」と答えたのは87%であった。探索的臨床研究の効果を推定したところ、メール介入群では、妄想的思考の重症度(Cohen’s d=-0.61)と抑うつ状態(d=-0.59)がより大きく減少し、病気の管理(d=0.31)と回復(d=0.23)が改善されたことが示唆された。
米国保健福祉省は2025年までに約25万人を超える心理療法セラピストが不足すると予測している。「ACTに加えて電子メールによる介入は、重度の精神疾患患者において改善がみられた。今回のような電子メールでの介入は、米国での精神疾患患者のケアにおいて費用対効果の高い方法となる可能性がある。今後、同手法をより大規模に検証していきたい」と、研究グループは述べている。
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・米ダートマス大学 プレスリリース