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腎臓オルガノイド技術を用いた新たなADPKD病態モデルの開発に成功-CiRA

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2020年08月06日 PM12:00

ヒト細胞を用いた新たなADPKD病態モデルの開発が必要

京都大学iPS細胞研究所()は8月5日、疾患特異的ヒトiPS細胞から作製した腎臓オルガノイドを用いて、)の腎嚢胞を培養皿上で再現した新たな病態モデルを開発したと発表した。これは、筑波大学大学院 CiRA増殖分化機構研究部門の清水達也共同研究員、同大大学院の山縣邦弘教授、CiRA同部門の長船健二教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米科学誌「Biochemical and Biophysical Research Communications」に掲載されている。


画像はリリースより

ADPKDは遺伝性腎疾患の中で最も患者数の多い病気であり、世界の末期腎不全症例の4~10%はこの疾患が原因となっている。原因遺伝子として、PKD1またはPKD2が知られており、患者は生まれつきいずれかの遺伝子の2セットあるうちの一方に変異を有している(ヘテロ変異)。PKD1に変異を持つ症例が約85%と多く、PKD2に変異を持つ症例よりも末期腎不全への進行がやや早いとされている。

ヒトのADPKDについて詳しく調べるには、遺伝的な背景が一致するヒトのモデルが望まれる。患者由来の細胞や組織を調べることも有用だが、腎嚢胞が生じる初期にどのようなことが起こっているのかは捉えるのが難しいと考えられる。その点、iPS細胞などの多能性幹細胞から作製したヒトの組織を調べることは、従来の研究にない可能性を有している。これまで、PKD1またはPKD2のゲノム編集を行ったホモ変異(2セットある遺伝子の両方に変異を有する)のヒトES細胞を用いて腎臓オルガノイドを作製し、培養皿上で嚢胞構造を再現した報告はあったが、、特に患者由来ヒトiPS細胞を用いて腎嚢胞を再現した報告はなかった。そこで、研究グループは今回、ADPKD特異的ヒトiPS細胞から作製した腎臓オルガノイドを用いて、新たな病態モデルを開発することを目指した。

患者由来iPS細胞株から腎臓オルガノイドを作製、腎嚢胞の再現に成功

まず、PKD1の変異によって腎臓オルガノイドにどのような影響が出るか調べるため、健常者由来のヒトiPS細胞に対してゲノム編集を行い、PKD1変異ヒトiPS細胞株(ヘテロ変異、およびホモ変異)を樹立した。さらに、同研究グループで開発された分化誘導法を用いてPKD1変異ヒトiPS細胞株から腎臓オルガノイドを作製し、病的な変化がないか調べた。これまでの研究で、ADPKDでは細胞内のcAMPという分子の量が増加していると報告されていた。PKD1変異ヒトiPS細胞株から作製された腎臓オルガノイドは、それだけでは明らかな異常はみられなかったが、細胞内のcAMPを増加させるフォルスコリンという薬剤で処理することで、腎臓オルガノイド内に嚢胞構造が再現された。PKD1ホモ変異株(PKD1-/-)と比べると差は小さいものの、患者と同じくPKD1ヘテロ変異(PKD1+/-)の状態でも、嚢胞の面積率が増大することがわかった。

患者由来ヒトiPS細胞は、実際の患者と同一の遺伝的バックグラウンドを有しており、将来ADPKDを発症する可能性を有している。以前、同研究グループで樹立されたADPKD患者由来ヒトiPS細胞株、および健常者由来ヒトiPS細胞株(それぞれ2株ずつ)を用いて腎臓オルガノイドを作製し、同様の実験を行ったところ、ADPKD患者由来ヒトiPS細胞株から作製した腎臓オルガノイドでは、健常者由来ヒトiPS細胞株から作製した腎臓オルガノイドよりも、嚢胞の面積率が大きいことがわかった。さらに、嚢胞が腎臓オルガノイド中のどのような組織に由来するか免疫染色を行って調べたところ、動物モデルやヒトにおける知見と一致して、尿細管と呼ばれる部位が拡張してできていることがわかった。

作製した腎臓オルガノイドで既報薬剤の効果を確認、病態解明や治療薬候補同定に期待

最後に、今回作製したモデルが病態モデルとしての妥当性を持つか、動物モデルを用いた研究で、嚢胞の増大抑制効果が知られている薬剤を用いて調べた。患者由来ヒトiPS細胞から作製された腎臓オルガノイドにおける薬剤の効果は、実際の患者の腎臓に対する効果を予測することが期待される。薬剤投与に伴う毒性などの影響を今後評価していく必要があるが、今回の検討では、過去に嚢胞の増大抑制効果が報告されているCFTR阻害薬およびmTOR阻害薬の投与において、嚢胞の面積率の低下を認め、治療薬候補の探索的スクリーニングにおける今回のモデルの有用性が示唆された。

今回の研究では、疾患特異的ヒトiPS細胞から作製した腎臓オルガノイドを用いて、ADPKDの新規病態モデルが開発された。また、このようなモデルが将来的に治療薬探索のプラットフォームとして利用できる可能性が示された。研究グループは、「本研究の成果は、ヒトのADPKDの病態解明や、探索的スクリーニングによる治療薬候補の同定に貢献することが期待される」と、述べている。

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