日本人の関節リウマチに合併した間質性肺炎に関する遺伝的リスクは?
大阪大学は8月1日、日本人の関節リウマチ患者5,000人を対象としたヒトゲノム情報解析により、関節リウマチに合併する間質性肺炎に関わるRPA3-UMAD1遺伝子領域における遺伝子多型を同定したと発表した。この研究は、大学院医学系研究科の白井雄也大学院生(博士後期課程)、岡田随象教授(遺伝統計学)らの研究グループが、東京大学大学院新領域創成科学研究科の鎌谷洋一郎教授らと共同で行ったもの。研究成果は、「Annals of the Rheumatic Diseases」に掲載されている。
画像はリリースより
関節リウマチは進行性の関節破壊が起こる全身性の炎症性疾患であり、代表的な合併症に間質性肺炎がある。間質性肺炎は肺の間質にさまざまな理由で炎症や損傷が起きるが、多くが肺組織の線維化を引き起こして非可逆的な肺障害を起こす。そのため、関節リウマチ患者が間質性肺炎を合併すると死亡率が上昇することが知られている。これまでに、欧米人集団を対象とした研究において、関節リウマチに合併する間質性肺炎のリスクとなるMUC5B遺伝子多型が報告されている。しかし、この遺伝子多型は日本を含む東アジア人ではほとんど見られず、人種間で疾患に影響する遺伝的要因は異なると考えられている。
近年、ヒトゲノムデータの蓄積に伴い、大規模なゲノムワイド関連解析(GWAS)が世界中で行われ、さまざまな疾患と個人間のゲノムの違いが研究されている。これまで、関節リウマチに関してはGWASにより多くの疾患感受性領域が同定されているが、関節リウマチに合併した間質性肺炎に関して全ゲノム領域における遺伝的リスクを調べた研究は報告されていなかった。そこで研究グループは、今回、国内で集められた関節リウマチ患者の大規模なヒトゲノム情報を使用してGWASを実施し、日本人における関節リウマチ合併間質性肺炎の遺伝的要因を探索した。
日本人患者5,000人を解析して多型を同定、胸部CT画像パターンで強い関連
研究グループはまず、東京女子医科大学 膠原病リウマチ痛風センターにおけるIORRAコホート、バイオバンク・ジャパンにより収集された日本人関節リウマチ患者を間質性肺炎の併発の有無で分類し、全ゲノム領域の遺伝子多型に対して2群間で比較解析を実施。各コホートの結果を統合し、メタ解析を行うことで、最終的に358人の間質性肺炎合併者と4,550人の非合併者の解析を行った。その結果、間質性肺炎合併群で有意に多く認められる遺伝子多型を7番染色体上に同定した。
さらに、今回の遺伝子多型が間質性肺炎のどのタイプに強く影響を及ぼすかを調べるために、胸部CT画像パターンによる層別解析を実施。その結果、関節リウマチに合併した間質性肺炎全体の中でも、「通常型間質性肺炎パターン」「通常型間質性肺炎疑いパターン」といった肺の線維化と関連の強い画像パターンで今回の遺伝子多型が多くみられることがわかった。そのため、今回の遺伝子多型が間質性肺炎の多様な病態の中でも線維化に関わっている可能性が示唆された。
同定した遺伝子多型はテロメア調整、DNA安定化に関わるRPA3遺伝子領域に位置している。国際コンソーシアムによるGTExプロジェクトでは、今回の遺伝子多型がRPA3の転写量の調整に関わることが報告されており、RPA3の遺伝子発現量の変化が間質性肺炎の発症に関わる可能性が示唆される。これまでに特発性間質性肺炎に関しては、主に欧米においてリスクとなる遺伝子多型が多く報告されており、その中にはテロメア調整に関わるTERT遺伝子などが含まれている。今回の解析においても、TERT遺伝子の多型において関節リウマチ合併間質性肺炎のリスクが認められた。特発性間質性肺炎とリウマチ合併間質性肺炎は似たような画像パターンを呈するが、病状の進行や治療反応性が異なるため、全く同じ病態ではないと考えられている。今回の研究により、関節リウマチに合併する間質性肺炎は、特発性間質性肺炎において関与が指摘されているテロメア調整機構の異常が関わっている可能性があると示唆された。
研究グループは、「関節リウマチに合併する間質性肺炎のみならず、肺の線維化という大きな課題に対しても本研究が一助となることが期待される」と、述べている。
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