多くの苦痛を伴う「難治性耳管開放症」、効果が継続的な治療法は存在しなかった
東北大学は8月3日、富士システムズ株式会社と難治性耳管開放症患者に対する治療機器「耳管ピン」を開発し、医師主導治験により有効性・安全性が認められ、2020年5月29日に製造販売承認を取得したと発表した。これは、仙塩利府病院の小林俊光医師(東北大学名誉教授)、東北大学病院耳鼻咽喉・頭頸部外科の菊地俊晶医師、池田怜吉医師、同大大学院医工学研究科の川瀬哲明教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Laryngoscope」に掲載されている。
画像はリリースより
耳管は、鼓膜の内側にある中耳と鼻の奥を結ぶ細い管で普段は閉じており、鼓膜内に空気をためておくことで、耳から入った音を聞くことができる。また、耳管は一時的に開くことで、鼓膜の内と外の圧力の調整も行う。例えば、飛行機などで急に高い場所へ上った時に、聞こえ難さや耳の痛みを感じることがあるが、これは、鼓膜の内側と外側の空気の圧力が違うために起こる。その際には、ものを飲み込んだり、あくびをしたりすることで一時的に耳管を開き、鼓膜の内側の空気圧を外と同じにすることで、いつも通り音が聞こえるようになる。
耳管開放症は耳管が閉鎖されず、常に開放した状態になる疾患。開いた耳管を通って内側から自分の声や呼吸の音が聞こえてしまうため、発声・会話の障害となり、聞こえ方も不自然になる。多くは生活指導や生理食塩水を鼻から入れる処置、漢方薬などで対処することができるが、難治性耳管開放症の場合は僅かな効果しか得られず、ほぼ毎日症状が現れるため、多くの苦痛を伴う。特に声を発することが多い職業の人には非常に辛い症状だが、これまで効果の継続する治療方法は存在しなかった。
多施設共同の医師主導治験では82.1%の患者に有効性示す
研究グループはこれまで、難治性耳管開放症患者に対する治療方法を考案し、さまざまな試験を行ってきた。その中で、耳管開放症患者における最適な形状である耳管ピンを見出した。
2017年より小林俊光医師を代表とし、難治性耳管開放症患者に対する症状の改善を目的とする世界で初めての多施設共同の医師主導治験を開始。この治験では、耳管ピンを使用した82.1%の患者に有効性を示し、高い有効性と安全性が確認された。そこで、治験終了後に富士システムズから医薬品医療機器総合機構(PMDA)に製造販売承認申請書を提出し、2020年5月29日に製造販売承認を取得した。
耳管ピンは医師の医療ニーズから発案された製品であり、難治性耳管開放症患者に対する治療機器としては世界で初めての承認であることから、患者の苦痛を軽減することが期待される。今後、富士システムズが厚生労働省に医療保険適用申請を行い、販売予定だとしている。
▼関連リンク
・東北大学 プレスリリース