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妊産婦の自殺予防のための地域母子保健システムを開発-成育医療センターほか

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2020年08月03日 PM12:00

年間約100人の妊産婦が自殺、予防対策システムの確立へ

国立成育医療研究センターは7月30日、妊産婦の自殺予防のための地域母子保健システム「長野モデル」を開発したと発表した。これは、同センターこころの診療部乳幼児メンタルヘルス診療科の立花良之診療部長らの厚生労働科学研究班グループと、長野県長野市の母子保健関係者との共同研究によるもの。研究成果は、「BMC Psychiatry」に掲載されている。

同センターが人口動態統計を分析した研究によると、2015〜2016年の妊産婦の自殺は102人で、周産期死亡の原因の1位が自殺であることが明らかになっている。身体的な原因による死亡(74人)よりもはるかに多くの妊産婦が自殺で死亡しており、妊産婦の自殺予防対策は喫緊の課題だ。妊婦の自殺は胎児の死亡にもつながり、また、産褥婦の自殺では子どもとの心中の事例も少なくなく、周産期のみならず児童虐待予防の観点からも周産期の自殺対策は極めて重要である。

周産期の自殺の原因は、産褥精神病・産後うつ病などが多いが、これらは早期発見、早期治療を受ければ一般的に予後の良い疾患である。そのため、現状の妊産婦自殺や母子心中で失われている命は、母子保健における早期発見・早期介入システムを確立することで、その多くを救うことができると考えられる。日本だけでなく、海外においても、有効な妊産婦の自殺予防対策のシステムはなく、有効な地域介入プログラムの確立が望まれている。そこで研究グループは、長野県長野市の妊婦を対象に研究調査を実施し、その効果について検討した。


画像はリリースより

新生児訪問時に母親に対しEPDS実施、自殺念慮を認めた場合に多職種で介入

今回の「長野モデル」では、新生児訪問時に保健師がEPDSを使って、心の状態をアセスメントした。EPDSの項目10(自分自身を傷つけるという考えが浮かんできた)は自殺念慮を反映するとされている。EPDSの実施自体は他の自治体でも行われているが、長野モデルでは、EPDSを実施した際に項目10の結果から母親の自殺念慮をアセスメントし、自殺念慮を認めた場合には心理的危機介入を行い、その後、精神科医などをはじめとした多職種で連携してさまざまな社会資源の積極的な導入を検討しながら、注意深くフォローアップした。対照群は、2015年11月〜2016年3月(研究開始前)に長野市で妊娠届を出した母親230人。介入群は長野市で2016年4月〜2016年7月(研究開始後)に妊娠届を出した母親234人であった。

産後の母親の自殺念慮を改善、メンタルヘルス改善にも寄与

3〜4か月児健診時にEPDSの項目10を用いて母親の自殺念慮をアセスメントしたところ、介入群が対照群に比べ統計的に有意に点数が低く(p=0.014)、地域全体の母親の自殺念慮の改善が示され、「長野モデル」の産婦自殺予防対策の有効性が明らかとなった。また、3〜4か月児健診時のEPDS合計点において、介入群が対照群に比べ統計的に有意に低く(p<0.001)、長野モデルは地域全体の母親のメンタルヘルスを向上させる効果も示した。7〜8か月児健診時においても、EPDS合計点は介入群が対照群に比べ統計的に有意に低く(p=0.049)、メンタルヘルスの向上効果は産後3~4か月にとどまらず、産後7〜8か月まで持続することが示された。なお、自殺念慮については、産後7〜8か月において、介入群と対照群の間に統計的な有意差を認めなかった。

順天堂大学の竹田省教授らの調査から、産後3〜4か月は妊娠中から産褥期1年未満の間で、最も自殺件数の多い時期であることが示されている。このことから、産婦自殺予防プログラムは自殺件数が最も多い産後3〜4か月に効果的であることが重要だと考えられる。その意味で、「長野モデル」は産婦自殺予防で最も重要な産後3〜4か月に自殺念慮を改善させる有効性を示したと考えられる。

「TALKの原則」、自殺念慮の有無にかかわらず有効か

自殺予防学の領域で、「TALKの原則」という関わり方の手法がある。長野モデルでは、保健師が母親と関わる際に、TALKの原則を応用した。「TALK」とは、Tell(伝える)、Ask(尋ねる)、Listen(聴く)、Keep safe(安全を確保する)の頭文字を取ったもの。一例として、「Tell」は自殺念慮・希死念慮を語った本人に対し、自分の気持ちをはっきりと伝えることで、「いまのあなたのことがとても心配です」「死んでほしくないです」などを母親本人に伝えることを指す。「Ask」は、「どんな時に死にたいと思いますか」などと、死んでしまいたいという気持ちについて率直に尋ねること。このTALKの原則を用いた関わり方の姿勢は、傾聴・共感を軸としており、日常の実践の中でTALKの原則に留意することは自殺念慮を認める母親のみならず、すべての母親へのサポートに有効であったと考えられる。

本研究の介入方法は、日本精神神経学会・(編)「精神疾患を合併した、あるいは合併の可能性のある妊産婦診療ガイド」妊産婦の精神症状対応ガイド総論における妊産婦自殺対策の項にも反映されている。「今後、他の地域の母子保健関係者を対象とした研修会を開催するなどして、長野モデルの介入手法の均てん化を図っていく予定だ」と、研究グループは述べている。

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