血管新生因子PDGF-B、内臓脂肪での血管新生の引き金として重要
富山大学は7月27日、肥満病態における脂肪組織の肥大化機構を検討し、その制御に間質細胞由来因子1(SDF1)が重要な役割を果たすことを発見したと発表した。この研究は、同大学術研究部(薬学・和漢系)の笹岡利安教授、和田努講師、渡邊愛理大学院生らの研究グループによるもの。研究成果は、科学専門誌「Angiogenesis」電子版に掲載されている。
画像はリリースより
近代化によるライフスタイルの変化に伴い、内臓脂肪蓄積を背景とするメタボリックシンドロームや2型糖尿病患者の増加が社会問題となっている。これらの多くの病態は肥満抑制により改善するため、肥満の進展機序の解明に基づく効果的な治療法の開発は重要な研究課題だ。
脂肪組織の肥大化には、大きくなった組織を維持するために血管も発達する必要がある。血管が新しく生まれる過程は血管新生と呼ばれ、研究グループは先行研究により、血管新生因子PDGF-Bが、内臓脂肪での血管新生の引き金として重要な機能を示すことを明らかにしている。
脂肪血管は周皮細胞に囲まれており、これらが血管を安定させている。肥満状態ではこの周皮細胞がPDGF-Bの作用で血管から剥がれることで、血管が増殖して脂肪組織が大きくなる。しかし、PDGF-Bによる血管新生促進作用を制御する機構は、これまで明らかになっていなかった。
肥満脂肪組織でSDF1が特徴的に増加、肥満マウスでその役割を研究
研究グループは、痩せマウスと肥満マウスの全身の各組織の解析によって、肥満の脂肪組織でのみ特徴的に増減する血管新生因子の探索を実施。その結果、血管新生因子SDF1が肥満脂肪組織で特徴的に増加することを見出した。SDF1は骨髄から血管の前駆細胞を、血管新生の必要な部位に送り届けるメッセンジャーとして機能する血管新生因子だが、脂肪組織血管への作用は明らかになっていなかった。
そこで今回の研究では、脂肪組織の肥大化に関わる血管新生に果たすSDF1の役割を、培養内臓脂肪組織、培養細胞、および肥満マウスを用いて研究した。
SDF1はPDGF-Bによる血管新生を抑制して脂肪組織肥大化を抑制
SDF1が脂肪組織の血管におよぼす影響を、マウスの内臓脂肪を器官培養して詳細に解析した結果、肥満状態を想定したPDGF-B刺激による血管からの周皮細胞の脱離は、SDF1により消失。すなわち、SDF1は血管新生を抑制して無秩序な脂肪組織肥大化を抑制する機能を有することがわかった。
また、マウスの解析から、肥満状態では脂肪組織のSDF1が増加するが、ともに増加したDPP4によって分解されることで、肥満状態での周皮細胞脱離と血管新生を止められない状態になっていたという。そこで、抗糖尿病薬のDPP4阻害剤をマウスに経口投与したところ、SDF1の分解は抑制され、脂肪組織での周皮細胞の脱離、血管新生と脂肪組織肥大化が抑制された。マウスでのDPP4阻害剤による血管への影響は、SDF1受容体阻害剤の追加投与により消失したことから、DPP4阻害剤による脂肪組織血管への効果はSDF1の作用を介していると考えられるという。
SDF1が糖尿病などに対する新たな治療標的となる可能性
以上の結果から、肥満の進展に伴って増加するPDGF-Bが血管から周皮細胞を脱離させることで血管が増殖し、脂肪組織が肥大化すること、また肥満状態では内臓脂肪でSDF1も増加するが、同時に増加したDPP4により分解され、その機能を示さないことが明らかになった。一方で、DPP4阻害剤投与によりSDF1は分解されないため、SDF1はPDGF-Bによる周皮細胞の脱離を抑制して血管新生を停止させ、脂肪組織の肥大化を進行させないこともわかった。これらの結果は、糖尿病患者にDPP4阻害剤を用いたときに体重増加を来しにくい理由と考えられるという。また、DPP4作用阻害によるSDF1作用促進は、肥満病態を改善することから、SDF1が糖尿病など肥満に伴う様々な生活習慣病に対する新たな治療標的であることが示された。
肥満に伴う内臓脂肪の血管新生制御メカニズムの解明が進んだことに基づき、今後はその機序をさらに解明するとともに、脂肪組織での血管新生が脂肪細胞におよぼす影響に焦点を当ててその意義を深く研究し、肥満病態に対する安全でより効果的な治療法の開発を追究していきたい、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・富山大学 ニュースリリース