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日本人ミトコンドリア肝症の臨床像・遺伝学的特徴を解明-千葉県こども病院ほか

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2020年07月28日 PM01:00

ミトコンドリア病の1割を占めるミトコンドリア肝症はあまり知られていない

千葉県こども病院は7月27日、日本における重症型のミトコンドリア肝症である脳肝型ミトコンドリアDNA枯渇症候群()と診断された23症例を対象に、その臨床的特徴、分子学的特性、長期経過、肝移植予後の検証を行ったことを発表した。この研究は、同院 遺伝診療センター・代謝科の志村優医員、村山圭部長、国立成育医療研究センター臓器移植センターの笠原群生センター長、順天堂大学難病の診断と治療研究センターの岡﨑康司教授(センター長)、埼玉医科大学小児科/ゲノム医療科の大竹明教授、津山中央病院小児科の梶俊策主任部長、済生会横浜市東部病院小児肝臓消化器科の乾あやの部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Orphanet Journal of Rare Diseases」に掲載されている。


画像はリリースより

ミトコンドリア病は約5,000人に1人の頻度で発症する最も頻度の高い、エネルギー産生障害を引き起こす先天代謝異常症。神経・筋症状を呈するミトコンドリア病はよく知られているが、黄疸など肝症状を主体とするミトコンドリア肝症についてこれまでほとんど知られていなかった。ミトコンドリア肝症は、ミトコンドリア病と生化学診断された小児の10~20%程度を占める。なかでも重症型のMTDPSはミトコンドリアDNA(mtDNA)の維持や複製に関わるタンパク質の欠損により発症し、乳児期早期に肝不全を発症しうる、最重症の病型であることが知られている。

重症型ミトコンドリア肝症の日本人23例につき大規模な後方視的検討を実施

ミトコンドリア肝症に対する治療は、他のミトコンドリア病と同様に十分なエビデンスをもつ治療法が存在しないため、対症療法が中心となっている。一方、内科的治療でコントロールできない肝不全に対し、肝移植術が考慮される。日本での小児の肝移植後の5年生存率は85%以上だが、海外の報告におけるミトコンドリア肝症に対する肝移植後生存率は、術後の肝外症状の悪化等により30%にとどまることが知られており、欧米のガイドラインでは肝移植の適応は、術前に肝外症状が存在しない症例にのみ考慮されている。しかしながら、ミトコンドリア病に対する肝移植治療の報告数は限られ、さらに症例ごとに予後が大きく異なることが問題となっていた。

最近のマウスにおける研究により、MTDPSの原因遺伝子の一つであるMPV17はDNAやRNA等の核酸の複製に必要なデオキシヌクレオチド3リン酸(dNTP)の供給に関与していることが明らかになった。MPV17異常症においてはミトコンドリア内のdNTPが不足することでmtDNAが枯渇することが知られており、海外においては核酸補充療法(dNTP補充療法)がMPV17異常症の新規治療候補として注目を集めている。

今回、研究グループは、日本で初めてとなるミトコンドリア肝症の大規模な後方視的検討を行った。具体的には、2020年6月までにミトコンドリア病と診断された全国1,140例のうち、約1割にあたる107例がミトコンドリア肝症であったが、その中で、重症型のMTDPSと診断された23例について、臨床的特徴、遺伝学的特性、肝移植の実施状況、長期予後を調査した。

初発症状は約半数が乳児期早期から成長障害、乳児期の黄疸・胆汁うっ滞は9割

23例のうち、男児は11例、女児は12例だった。初発症状として成長障害を13例、嘔吐8例、黄疸を4例で認めた。これらの初発症状は20例(87%)で乳児期早期から出現していた。ミトコンドリア呼吸鎖酵素活性は22例で解析し、複数の呼吸鎖酵素活性の低下が19症例において認められた。mtDNA定量検査では、mtDNAコピー数の低下は0.5~31.7%だった。遺伝子検査の結果、23症例中18例で病因となる遺伝子変異が同定された。MPV17遺伝子が13例、DGUOK遺伝子が3例、POLG遺伝子が1例、MICOS13遺伝子が1例で同定された。

経過中に認められた肝症状のうち、最も頻度が高かったのは胆汁うっ滞(21例)で、その他、肝腫大(15例)、脂肪肝(16例)、肝線維化(17例)だった。また、経過中に肝不全を20例で認め、MPV17異常症の2症例が肝細胞がんを発症した。

ミトコンドリア病はATPをミトコンドリアに依存する諸臓器を障害するため、ミトコンドリア肝症においても肝症状だけでなく、神経筋症状や心臓合併症など、さまざまな肝外症状を示す。最も頻度の高い肝外症状は、成長障害(18例)で、続いて高乳酸血症(16例)、低血糖(15例)だった。神経筋症状で高頻度にみられたものは発達遅滞(13例)、筋緊張低下(8例)、けいれん(4例)だった。また頭部MRI検査で大脳白質病変を5例に認めた。神経筋症状を認めない症例は5例存在した。消化器症状として経口摂取不良を11例、嘔吐10例、下痢を5例に認めた。また、肺高血圧症を5例(:4例、DGUOK:1例)に認めた。

同定された原因遺伝子はMPV17、DGUOK、POLG、MICOS13、変異の詳細も解析

原因遺伝子変異の詳細については、MPV17遺伝子に変異をもつ13例中8例において、c.451dupCが同定された。c.451dupCをもつMPV17異常症は2016年に韓国からも報告があるが、それ以外の国からの報告はないため、日本を含む東アジアの高頻度変異の可能性が考えられる。c.143-307_170del335はDGUOK異常症の3症例において同定された。MICOS13異常症では、これまで報告のなかった新規変異c.13_29delが同定された。

肝移植は12例に対して行われ、5例が生存していた

肝移植術は、MPV17異常症9例、DGUOK異常症2例を含む12症例において実施された。肝移植の原因は、8例は肝不全、2例は肝細胞がん、2例は多発結節だった。肝移植後、MPV17異常症4症例を含む5症例(41.7%)が生存していた。また、肝移植を必要とせず生存していた症例はMPV17異常症の1例を含む2例だった。移植前に神経症状を合併していた9例中2例が術後生存していた一方で、移植前に神経症状を認めなかった3症例は全例が生存しており、術前に神経症状を伴わない症例では、移植予後が良いことが明らかとなった。しかしながら、術前に神経症状を認めなかった1症例においては、移植後5年経過してからてんかんや精神症状等の神経症状が出現していた。発症年齢別に移植予後を検討してみると、生後6か月未満で発症した8症例のうち2症例が生存(25%)、生後6か月以降に発症した4症例中3症例が生存しており(75%)、発症年齢が遅い方が、予後が良いことがわかった。

MPV17異常症のうちc.149G>Aまたはc.293C>Tをもつと比較的軽症

最も頻度の多かったMPV17異常症の遺伝子変異ごとの予後を検討すると、c.451dupCを少なくとも1本のアリルにもつ8症例においては、1例のみが生存していた。特にc.451dupCを2本もつ2症例は1歳未満で肝不全を発症し、肝移植を受けたが、術後2年以内に死亡していた。同じ変異をもつ韓国の兄弟例も生後6か月で肝不全により死亡しておりc.451dupCを2本もつ症例は予後不良であることが示唆された。一方で、c.149G>Aまたはc.293C>Tを少なくとも1本のアリルにもつ5症例(1症例は肝移植なし)は全例が生存しており、これらの変異をもつ症例は比較的軽症な表現型を示すことがわかった。

MPV17異常症に対する肝移植術は、過去に論文報告された症例を検討すると、日本の9症例を含めて計20症例に対して実施されていた。そのうち生存しているのは9症例(45%)であり、うち8症例がc.149G>Aまたはc.293C>Tを少なくとも1つ持っていた。また、肝移植後死亡した11症例中8例は移植前に神経症状を発症していた一方で、肝移植後生存している9症例中1例のみ移植前に神経症状を示していた。しかしながら、生存している9例中7例が肝移植後に何らかの神経症状を発症していた。以上より、MPV17異常症においては、術前に重篤な神経症状を示さず、c.149G>Aまたはc.293C>T変異をもつ症例では、比較的生命予後が良好であることが明らかになった。

今回の研究成果について、研究グループは、「重症型のミトコンドリア肝症の臨床像、分子遺伝学的特徴、また肝移植術の長期予後を明らかにしたことで、本症の早期診断、治療法の選択やその適応の検討に役立つだけでなく、治療薬の開発や国内外の臨床試験に必要な基礎的・臨床的エビデンスを提供するものとなる」と、述べている。

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