バイオエアロゾルの時空間的動態や粒径に関する特性などの知見は不足
富山大学は7月27日、日本の都市域および郊外における細菌バイオエアロゾルの特徴を明らかにしたと発表した。この研究は、同大学術研究部理学系の田中大祐教授、広島大学学術・社会連携室の藤吉奏助教、丸山史人教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
大気中浮遊粒子状物質の構成要素には生物由来が約25%(粒子数)含まれるという報告があるにもかかわらず、これまでは質量濃度、化学成分(元素、イオン、有機系化学物質)などの解析が主だった。このため、健康被害を少しでも削減するための取り組みとして、国内外では物理化学的な作用だけでなく、生物的要因による影響も含めた科学的知見の収集が展開されている。生物に由来するエアロゾル(浮遊粒子状物質)はバイオエアロゾルと呼ばれ、細菌、真菌、ウイルス、花粉、古細菌など多様であり、それらの挙動は明らかにされていない。
研究グループはこれまで、季節や標高(平野部、高所山岳)によって大気中の細菌や真菌の群集構造(種組成の構成)や密度が異なることなどを報告しているが、大気中に存在する微生物の時空間的動態や粒径に関する特性などの知見は不足しているのが現状だ。
都市域ではヒトの皮膚常在細菌、郊外では土壌や植物に関連する細菌が多く、国内でレジオネラ属菌が広がる恐れも
研究グループは今回、富山市と横浜市で大気試料を分級捕集し、細菌の群集構造解析と定量を行い、地域や粒径による差の把握を目指した。大気試料は、2016年8~10月の間に、富山市の富山大学理学部と横浜市の建物の屋上(それぞれ標高約20m)で、アンダーセンエアサンプラーを用いて9段階に分級捕集(分級範囲:0.43~11.0µm)した。各試料からDNAを抽出後、高速シークエンサーを用いた細菌群集構造解析とリアルタイムPCR法を用いた全細菌の定量を行った。
各分級試料について細菌群集構造を解析した結果、粒径1.1µmの閾値で細菌群集構造、多様性、全細菌密度が異なる傾向が両地域で見られた。また、門レベルではProteobacteria門、Actinobacteria門、Firmicutes門が優占していた。属レベルでは、横浜市の都市域ではPropionibacterium属、Staphylococcus属、Corynebacterium属などヒトの皮膚常在細菌が特徴的に認められたのに対し、富山市の郊外ではMethylobacterium属やSphingomonas属などの土壌や植物に関連する細菌が特徴的に認められた。さらに、レジオネラ症を引き起こす可能性のあるレジオネラ属菌が、両地域の2.1µmを超える粗大粒子側を中心に、約0.5%程度の割合で検出された。また、系統解析結果より冷却塔に生息するレジオネラ属菌が大気を介して国内で広がっている可能性が示された。
これらの結果は、屋外のエアロゾルにおける細菌群集の組成、多様性、粒径に関する特性と、ヒトの健康への潜在的な影響を評価する基盤となることが期待されると、研究グループは述べている。
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