所属病院外でCOVID-19などの新興感染症に対応した医療従事者のメンタルヘルスの状態を調査
東京大学は7月22日、2019年2月から3月にかけて所属病院外で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の救援活動を行った災害派遣医療チーム(DMAT)および災害派遣精神医療チーム(DPAT)に所属する医療従事者を対象としたアンケート調査を行った結果、病院外でCOVID-19の救援活動を行った医療従事者において、身体的および精神的疲労と周トラウマ期の精神的苦痛とがPTSD症状と関連することが示され、さらに、DMAT隊員はDPAT隊員と比較してPTSD症状との強い関連が認められたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科精神保健学・看護学分野の浅岡紘季大学院生(修士課程2年)と西大輔准教授らが、DMAT事務局およびDPAT事務局と共同で行ったもの。研究成果は、「Psychiatry and Clinical Neurosciences」のオンライン版に掲載されている。
現在、日本でもCOVID-19の患者数増加は重要な公衆衛生の問題となっている。2019年2月から3月にかけて、DMATおよびDPATに所属する国内の医療従事者は、病院外の派遣救援活動としてクルーズ船や帰国者滞在施設等においてCOVID-19に罹患している可能性のある人の治療や検疫を実施した。これまでの先行研究から、病院内におけるCOVID-19などの新興感染症に対応した医療従事者において、PTSD症状などのメンタルヘルスの問題が報告されているが、所属病院外においてCOVID-19などの新興感染症に対応した医療従事者のメンタルヘルスの状態やメンタルヘルスの悪化の関連要因は明らかにされていなかった。
DMAT隊員はDPAT隊員と比較してPTSD症状強く、救援活動中もセルフケアの時間確保が必須
そこで研究グループは、2019年2月から3月にかけて所属病院外でCOVID-19の救援活動を行ったDMATおよびDPATに所属する医療従事者を対象とした調査を行った。調査は救援活動後の3月11日~4月2日に実施され、PTSD症状と関連があると考えられる要因についてアンケート調査を実施。PTSD症状の関連要因について、統計学的な手法で検討した。所属病院外でCOVID-19の救援活動を行ったDMATおよびDPAT隊員807人のうち、414人から回答が得られ、全ての質問に回答した331人を解析対象者(男性74.6%、平均年齢43.0歳、医師31.1%、看護師30.5%、業務調整員38.4%)とした。救援活動中にCOVID-19患者と接触した参加者は105人(31.7%)だった。
病院外でCOVID-19の救援活動を行った医療従事者において、身体的および精神的疲労と周トラウマ期の精神的苦痛とがPTSD症状と関連することが示された。加えて、DMAT隊員はDPAT隊員と比較して、PTSD症状との強い関連が認められた。DMAT隊員とDPAT隊員の救援活動中の業務内容を考慮すると、救援活動中、感染症に罹患している可能性のある人と身体的な接触をすることは、PTSD症状と関連する可能性が示唆された。これらの結果から、COVID-19などの新興感染症の救援活動を行う医療従事者においてメンタルヘルスの問題を防止するには、救援活動中においてもセルフケアのための十分な時間を確保することが重要である示唆された。
今回の研究成果は、新興感染症の救援活動後にPTSD症状が強く現れる危険性が高い救援者の早期発見や、救援活動後のPTSD予防策の構築に寄与することが期待される。研究グループは、「今後は、前向きコホート研究等を進めていき、COVID-19の対応を行った医療従事者のメンタルヘルスの状態やメンタルヘルスの関連要因について長期的な調査をしていく予定だ」と、述べている。