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ヒトES由来大脳オルガノイドをマウス脳に移植、皮質脊髄路に沿う軸索伸展を確認-CiRA

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2020年07月21日 PM12:30

ヒト大脳オルガノイドの移植への応用可能性を検討

京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は7月17日、ヒト胚性幹細胞()から分化誘導した大脳オルガノイドをマウスの大脳皮質に移植することにより、神経細胞が皮質脊髄路に沿って軸索を伸展させることを明らかにしたと発表した。この研究は、CiRA臨床応用研究部門および京都大学大学院医学研究科脳神経外科学の北原孝宏大学院生、元CiRA同部門で現理研BDR-大塚製薬連携センターの坂口秀哉研究員、CiRA同部門の髙橋淳教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Stem Cell Reports」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

皮質脊髄路は、大脳皮質の運動野から脊髄に至る軸索の伝導路で、身体を動かす運動機能の情報を伝達している。脳血管障害や頭部外傷によって皮質脊髄路が障害されると、手足のまひなどの後遺症が生じる。この後遺症に対しては、薬物治療やリハビリテーションなどの治療はあるものの根本的な治療は存在しないため、将来的な治療として細胞移植による皮質脊髄路の再構築に期待が寄せられている。これまでのマウス等のげっ歯類を用いた研究では、障害を受けた大脳皮質にマウス胎仔大脳皮質の細胞を移植すると移植した細胞が皮質脊髄路に沿って軸索を伸ばし運動機能が改善することが示されているが、ヒトへの応用に向けては胎仔大脳皮質に代わる移植細胞の開発が必要だ。

近年、胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞()などの多能性幹細胞から生体組織と同様の構造と機能を持った3次元組織を分化誘導することが可能となり、このような組織はオルガノイドと呼ばれている。ヒトES/iPS細胞から作製された大脳オルガノイドは、大脳に関連する疾患を対象とした疾患モデルや創薬スクリーニングにおける有用性が報告されると同時に、細胞移植への応用についても注目されている。しかし、大脳オルガノイドの移植によって皮質脊髄路に沿った軸索伸展がみられるかどうかはこれまで検討されていなかった。また、大脳オルガノイドは分化誘導の段階に応じて細胞構成が変化するが、どの段階が移植に適しているかもこれまで不明だった。

そこで今回、研究グループは、ヒトの大脳オルガノイドをマウス大脳皮質に移植することによって皮質脊髄路に沿った軸索伸展がみられるかどうかを検討した。また、大脳オルガノイドの分化段階の違いが移植後の生着や軸索伸展にどのような影響をもたらすかも検討した。さらに、ホスト脳環境の違いによる軸索伸展への影響についても検討を加えた。

分化の前期段階のオルガノイドでより多くの軸索伸展を確認

研究グループはまず、多能性幹細胞から大脳組織を3次元で効率よく誘導する方法として知られている無血清凝集浮遊培養法(SFEBq法)を用いて、ヒトES細胞から大脳オルガノイドを分化誘導した。大脳の発生における神経産生では、大脳皮質外へ軸索を伸ばす皮質下投射ニューロン(SCPN)が前期に産生され、大脳皮質内へ軸索を伸ばす脳梁投射ニューロン(CPN)が後期に産生される。この神経産生の順序は、大脳オルガノイドにおいても再現されることが知られている。分化誘導開始6週間後の大脳オルガノイド(6週オルガノイド)では、神経細胞層にSCPNマーカーであるCTIP2を発現する細胞が認められた一方で、CPNマーカーであるSATB2を発現する細胞はまだ認められなかった。10週オルガノイドでは、神経細胞層が厚みを増し、CTIP2+細胞に加えてSATB2+細胞も認められた。

6週オルガノイドと10週オルガノイドはそれぞれ神経産生の前期(SCPN産生期)と後期(CPN産生期)に該当すると考えられるため、次に、この2つの時期の大脳オルガノイドをマウス大脳皮質に移植して比較検討を行った。その結果、移植12週間後の時点で6週オルガノイドの方がより大きな移植片を形成した。大脳オルガノイドの内部に含まれる増殖性細胞(Pax6+の大脳前駆細胞、KI67+の分裂細胞)を調べると移植前、移植後ともに6週オルガノイドの方がより多くの増殖性細胞を含んでおり、このことが移植片増大の原因と考えられた。

一方、マウスの皮質脊髄路の各部位(線条体、内包、大脳脚、脊髄)に伸びた軸索本数を調べると、6週オルガノイドの方がより多くの軸索を伸ばしていた。大脳皮質に存在する投射ニューロンの中で、皮質脊髄路へ軸索を伸ばすのはCTIP2+のSCPNであることが知られている。マウス大脳皮質に生着した移植片に含まれるCTIP2+細胞を調べると、6週オルガノイドの方が10週オルガノイドよりも多くのCTIP2+細胞を有していた。このことが軸索本数の違いに影響していると考えられた。

以上より、大脳オルガノイドの移植は皮質脊髄路に沿った軸索伸展をもたらし、皮質脊髄路の再構築に有用な可能性があることが示された。特に6週オルガノイドはCTIP2+細胞を多く含み皮質脊髄路の再構築に寄与すると期待されるが、未分化な増殖性細胞の残存が課題であることも明らかとなった。

脳損傷直後よりも1週間後の移植でより多くの軸索伸展を確認

脳梗塞や頭部外傷に対する細胞移植では大脳皮質が損傷を受けてから時間が経過した後で移植を行うことになるが、この時間経過に伴うホスト脳環境の変化が移植細胞からの軸索伸展に影響する可能性がある。そこで10週オルガノイドを用いて大脳皮質損傷直後と1週間後に移植した場合を比較したところ、1週間後に移植した場合の方がより多くの軸索伸展が認められた。これにより、大脳オルガノイドの移植において、ホスト脳環境の変化に伴って皮質脊髄路に沿った軸索伸展が促進されることが示された。今後、軸索伸展を促進する具体的な因子が明らかになれば、その因子の添加により大脳オルガノイドからの軸索伸展を促進できると考えられるという。

今回の研究によって、ヒトES細胞由来大脳オルガノイドのマウス大脳皮質への移植によって皮質脊髄路に沿った軸索伸展が得られることが明らかとなった。この結果から、脳梗塞や頭部外傷による皮質脊髄路障害に対して、大脳オルガノイドを用いた細胞移植による皮質脊髄路再構築が有効なアプローチとなる可能性が示された。また、移植する大脳オルガノイドの分化段階やホスト脳の損傷後の時間帯により、移植片のサイズや軸索伸展に違いが生じることがわかった。これらの結果から、移植細胞やホスト脳環境を最適化することにより大脳オルガノイド移植の有効性と安全性を高めることができると考えられると、研究グループは述べている。

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