宮城県南三陸町住民1万459人分の災害診療記録を分析
東北大学は7月16日、東日本大震災直後の宮城県南三陸町で診療を受けた住民の睡眠障害のリスク因子などを解明したと発表した。この研究は、同大災害科学国際研究所(IRIDeS)の江川新一教授、同大学医学系研究科公衆衛生学の辻一郎教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「The Tohoku Journal of Experimental Medicine誌」に掲載されている。
研究グループは、東日本大震災直後の宮城県南三陸町・気仙沼地区・石巻地区において、被災地の病院や自治体と研究協定を結んで医療機関以外でなされた診療記録(災害診療記録)から個人情報を削除した匿名データベースを用い、被災地における医療ニーズに関する詳しい解析を進めてきた。今回、特に震災後の南三陸町の睡眠障害に着目して分析を行った。
東日本大震災の津波により、南三陸町の公立志津川病院・開業医を含む全医療機関が機能を停止し、同町においては、重症者以外のほぼすべての診療が、外部からの医療支援に頼りながら、避難所または在宅で行われた。先行研究により、東日本大震災被災地の医療ニーズは、建物の倒壊による外傷は少なく、日常医療の中断による内科的疾患が大部分を占めたことがわかっているが、睡眠障害については、これまで十分に明らかになっていなかった。
そこで、今回研究グループは、南三陸町住民に関する匿名化された災害診療記録(1万459人分)を分析した。
画像はリリースより
慢性疾患のない比較的若い人々も、避難所生活によって睡眠障害リスク高に
睡眠障害は、医学的にメンタルヘルス問題の一つとして定義される。分析の結果、メンタルヘルス問題で受診した492人のうち295人(60%)に、その他の疾患で受診した9,967人のうち1,203人(12%)に、それぞれ睡眠障害がみられていたことがわかった。
睡眠障害を引き起こすリスク因子としては、「高齢(60歳以上)であること」「女性であること」「2つ以上の慢性疾患を持っていること」「避難所生活を送っていること」を特定。さらに、慢性疾患のない比較的若い人々(平均年齢:男性52歳、女性59歳)についても、避難所生活を送っていると、睡眠障害リスクが有意に高くなっていたことが判明した。メンタルヘルス問題は、睡眠障害だけでなく、統合失調症・うつ病などの精神疾患、不安障害(PTSDを含む)など、幅広い状態がある。メンタルヘルス問題を持つ人の睡眠障害は、震災前からあった可能性も高いが、震災により、睡眠障害・メンタルヘルス状態が悪化した可能性がある。
さらに記録を分析した結果、睡眠障害の対応として、経口の睡眠導入作用や抗不安作用をもつ薬剤が主に使用されていたことを確認。一方で、被災地において認知行動療法を行った心のケアチームの記録はあまり残っていなかったという。
今回の研究は、災害により全医療機関が失われた自治体における睡眠障害について、初めて詳しく分析した研究となった。災害によって被災した人に睡眠障害が起きることは珍しくないが、睡眠障害は、他の疾患や、他のメンタルヘルス問題の悪化につながりかねないものである。災害発生後、支援者は睡眠障害のリスクを念頭において幅広い支援を行う必要があり、また、被災者も、眠れない時は、我慢せずに支援者に伝えて、必要な治療や支援を受けることが大切だ、と研究グループは述べている。
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