さまざまな因子を分泌し、がんの悪性化を強める「CAFs」
熊本大学は7月15日、がん関連線維芽細胞(CAFs)が分泌する細胞外小胞(EVs)に含まれるAnnexinA6という分子が胃がん細胞に取り込まれることで抗がん剤治療抵抗性につながることを確認したと発表した。これは、同大・国際先端医学研究機構(IRCMS)消化器がん生物学・内原智幸研究員(令和2年3月まで在籍)、石本崇胤特任准教授、生命科学研究部消化器外科学・馬場秀夫教授らの研究グループと、国立がん研究センター研究所、大阪市立大学、シンガポール国立大学、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターとの共同研究によるもの。研究成果は、「Cancer Research」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
胃がんは日本において2番目に多いがん。特に進行した胃がんにおいては抗がん剤などのさまざまな薬剤が用いられているが、十分な病状の改善は得られていない。がん細胞の周りはがん微小環境とよばれるさまざまな細胞によって構成されている。その構成細胞の一つであるCAFsは、さまざまな因子を分泌することでがんの悪性化を強めることが知られている。同研究では、抗がん剤治療への抵抗性に関わるCAFs由来の分子を同定し、新規創薬への可能性を見出した。
AnnexinA6やCAFsをターゲットにした新たな治療薬開発に期待
研究グループはまず、胃がん患者の組織において、CAFsの量が多いと、その後の病状が悪いことを明らかにした。この関係は進行がんで抗がん剤治療を行った胃がん患者でも同様の結果だった。この結果を受けて、抗がん剤抵抗性獲得の原因となるCAFs由来の因子が存在するのではないかと考えた。
次に、ヒトの生体の条件に近づけた細胞実験によって、CAFsの培養上清で培養した胃がん細胞が抗がん剤抵抗性を獲得することを示した。どの遺伝子が働いているか(発現しているか)を調べる遺伝子発現解析を胃がん細胞で行った結果、CAFs由来のAnnexinA6を発現するEVsが、胃がん細胞の抗がん剤抵抗性に大事な働きをしていることを発見した。また、AnnexinA6は胃がん細胞にはほとんど発現せず、CAFsだけに存在していることが明らかになった。
これらのことから、AnnexinA6がEVsを介して胃がん細胞に取り込まれることで、抗がん剤抵抗性獲得に関わることが判明した。さらに、AnnexinA6は胃がん細胞内に取り込まれた後、胃がん細胞膜上のβ1インテグリンを安定化させ、下流のシグナルを活性化することで、抗がん剤抵抗性の獲得に寄与することを明らかにした。
今回の研究成果により、胃がん細胞の周りにあるCAFs由来のAnnexinA6が抗がん剤治療抵抗性を引き起こしていることが明らかにされた。研究グループは、「今後の研究の進捗によって、胃がんにおいてAnnexinA6やCAFsをターゲットにした新たな創薬開発が期待される」と、述べている。
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