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血管内皮増殖因子の発現、遺伝子St18が抑制するメカニズムを解明-生理研

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2020年07月16日 PM12:15

がんの新たな治療標的として期待されるSt18

生理学研究所は7月15日、マクロファージで強く発現するZinc finger proteinの遺伝子St18をマクロファージでのみ欠損するマウスを用いて、St18が血管内皮増殖因子()の発現を転写因子Sp1の抑制で抑えていることを発見したと発表した。この研究は、同研究所生体機能調節研究領域特別協力研究員の丸山健太医師らの研究グループによるもの。研究成果は、米科学誌「Cell Reports」に掲載されている。

近年、Zinc finger proteinの遺伝子St18が肝臓がんにおいて炎症を促進させることが報告された。St18の発現を抑制させた肝臓がんの細胞では炎症性サイトカイン遺伝子の発現が低下することから、St18ががんの新たな治療標的となるのではないかと期待されている。研究グループは、St18ががん細胞よりも免疫細胞のマクロファージで非常に強く発現していることを見出した。一方で、St18が敗血症や腸炎といった免疫現象の絡む病態において、どのような役割を果たしているのかは不明だった。

VEGFはマクロファージや腫瘍細胞で発現し、血管透過性と血管新生の促進作用を有する。VEGFは全身炎症に伴う血圧の低下やがんの増殖といったさまざまな病態において重要な役割を果たしていることが知られており、VEGFの中和抗体は進行大腸がんの治療薬として広く使用されている。しかしVEGFの発現を抑制する分子があるかどうかは明らかになっていなかった。


画像はリリースより

St18欠損マウスでは血管透過性と血管新生が亢進

今回研究グループは、マクロファージで特異的にSt18を欠損させたマウスを作製し、表現型解析を実施。その結果、同マウスは炎症性サイトカイン遺伝子の発現が正常であるにもかかわらず、敗血症や薬剤性腸炎ですぐに死亡することがわかった。

敗血症や薬剤性腸炎では血管透過性が上昇することで血圧が低下し、このことが原因で個体は死に至る。そこで、エバンスブルーという色素を静脈に注射し、一定時間後に様々な臓器をとりだして当該色素の濃度を測定した。その結果、マクロファージで特異的にSt18を欠損させたマウスでは野生型マウスよりも濃度が高くなっていることが明らかになった。この結果は、マクロファージにおけるSt18の欠損が全身の血管透過性を高めていることを意味する。また、網膜や腸に分布する血管の数はマクロファージで特異的にSt18を欠損させたマウスで有意に増加していたことから、マクロファージにおけるSt18の欠損は個体全体の血管透過性の亢進のみならず、血管新生の増大をもたらすことが判明した。

、転写因子Sp1と結合し機能を抑制することでVEGF発現を抑制

次に、こうした表現型の発現する分子メカニズムを明らかにする目的で、遺伝子発現解析を実施。その結果、血管透過性と血管新生の促進作用を持つVEGFの発現がSt18を欠損するマクロファージで上昇していることが明らかとなった。そこで、マクロファージで特異的にSt18を欠損させたマウスにVEGFのシグナルを抑制する薬剤アキシチニブを投与したところ、敗血症と薬剤性腸炎に対する死亡率は野生型と同程度となった。このことから、マクロファージで特異的にSt18を欠損させたマウスの表現型は、VEGFの過剰な産生に起因していることが明らかとなった。

続いて、St18が欠損するとなぜVEGFの発現が上昇するのかを明らかにする目的で、VEGFのプロモーターの解析を実施した。その結果、VEGFのプロモーターには転写因子Sp1の結合する配列が存在することが判明。そこで、マクロファージの培養細胞にSp1を過剰発現させたところ、VEGFのプロモーターが活性化することでVEGFの発現が誘導されることがわかった。この結果は、Sp1がVEGFの発現を誘導する転写因子であることを意味しているという。実際に、St18を欠損するマクロファージでは野生型よりもたくさんのSp1がVEGFのプロモーターに結合しており、St18を欠損するマクロファージから産生されるVEGFの量はSp1阻害剤をふりかけることで正常化した。

最後に、生化学的解析を駆使してSt18とSp1の関係性を調べた結果、St18はSp1と直接結合することで、Sp1のVEGFのプロモーターへの結合を阻害していることが明らかになったとしている。

、がんなどVEGFと関連する疾患の治療法開発に期待

今回の研究結果によって、マクロファージにおけるSt18の発現レベルを調節することで、敗血症や腸炎、がんといったVEGFとかかわる疾患の治療法開発が期待される。

研究グループは、マクロファージのSt18がVEGFを強力に抑制することが明らかになり、今後、マクロファージのSt18を誘導することのできる化合物を探索することで、VEGFのかかわるさまざまな疾患の新しい治療につなげたい、と述べている。

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