オシメルチニブの治験は、患者からの提案によって実施されるもので、医師が全責任を負い、患者も被験者募集などに協力する。AZがオシメルチニブの提供のほか試験費用の全額を支援する。
オシメルチニブは、EGFR活性型変異とT790M変異を選択的に阻害する第3世代のEGFR阻害剤。2018年にEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌(NSCLC)の一次治療の適応で追加承認を取得しているが、EGFR耐性遺伝子のT790M陰性で他剤で治療歴のある患者は適応外となっていた。
これまでの臨床試験結果から、T790M陰性のNSCLCでも約20%に効果があり、脳転移症例にも奏効する可能性から、ワンステップの長谷川一男理事長が西日本がん研究機構理事長で近大腫瘍内科の中川和彦氏に対し、T790M陰性NSCLC患者を対象とした医師主導治験を提案した。
その後、昨年3月に患者と研究者の共同でオシメルチニブを販売するアストラゼネカに支援を求める患者要望書を提出し、AZと交渉を行った結果、患者提案型医師主導治験が実現した。
長谷川氏は、9日に開かれた講演会で、「数万人の肺癌患者が効果があるかもしれない薬剤が使えないと言いながら、亡くなっていく光景が瞬時に想像できた」と述べ、患者ニーズから治験を提案した背景を説明。「すごくうれしい。次につながればいいと思う」と期待感を示した。
治験調整医師を担当する中川氏も、「新しい流れだと思う。製薬企業の医薬品開発では、患者の声が開発計画に反映されてこなかったが、製薬企業と研究者がペイシェントファーストに立ち返る契機であるということが、試験の意義と考えている」と語った。
今回の試験では、血漿や腫瘍組織からT790M陰性を確認、または検査実施困難な患者を対象とした多施設共同試験で、二つのコホートで構成されている。コホート1は、EGFR阻害剤治療後に脳転移単独増悪を認めた患者が対象で、主要評価項目として画像中央判定による転移性脳腫瘍奏効割合を検討する。
コホート2は、EGFR阻害剤、またはプラチナ製剤による治療後に腫瘍増悪を認めた患者が対象で、画像中央判定による奏効割合を評価する。