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病気の類似性から創薬標的分子や治療薬を探索できる情報技術を開発-九工大ほか

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2020年07月15日 PM12:15

医療ビッグデータから創薬標的分子や治療薬を同定する情報技術は存在しなかった

九州工業大学は7月14日、ヒト生体内分子間相互作用ネットワークにおいて病気の類似性を評価し、創薬標的分子や治療薬を探索する情報技術を開発したと発表した。これは、同大大学院情報工学研究院の山西芳裕教授、飯田緑博士研究員、岩田通夫博士研究員らと科学技術振興機構の研究グループによるもの。研究成果は、「Bioinformatics」に掲載されている。


画像はリリースより

医薬品開発において、創薬標的分子やその制御化合物を見つけることは重要課題だ。一般的に、病気は表現型の違いで区別されているが、異なる病気間でも分子的特徴が共通する場合がある。例えば、肺高血圧症と男性機能障害は一見全く異なる病気だが、PDE5というタンパク質の異常発現は共通しており、どちらもPDE5を創薬標的分子としてシルデナフィルという化合物が治療薬になったという経緯がある。

これまで、創薬標的分子を見つけるためには、治療を目的とする病気のみに焦点を当てデータを収集し、健康な人と比較するアプローチが一般的だった。しかし、創薬標的の候補となる生体分子は非常に多く、探索空間が広いため、有効な創薬標的分子を選ぶのが困難という問題があった。そこで、シルデナフィルの例から示唆されるように、病気と病気の関係性も考慮することで、創薬標的分子を効率的に探索できる可能性があることに着目した。そのためには、病気間の分子レベルでの類似性を評価する必要があるが、単純なデータの比較だけでは、病気間の潜在的な共通性を見出すのは困難だ。生命システムは多数の生体分子の複雑な相互作用によって成り立っており、病気はその破綻として引き起こされる。生体分子群の機能的な連動性を考慮し、病気と病気の関係性を正確に評価する指標が強く望まれている。

一方、近年さまざまな病気の罹患者の臨床データやオミックスデータ(遺伝子発現情報など)が網羅的に手に入るようになってきている。これらのさまざまな医療ビッグデータは、医薬品開発の有用なリソースと考えられており、創薬標的分子や治療薬を同定する情報技術が切望されている。

従来法と比べて最大3倍の予測精度をもつ新技術を開発、予測結果の妥当性も確認

研究グループは今回、さまざまな病気のオミックスデータから、分子間相互作用ネットワークに基づく病気の類似性を評価し、創薬標的分子や治療薬の同定を支援する新しい情報技術を開発した。

まず、ある2つの病気が分子間相互作用ネットワーク上でどれくらい似ているかを評価する方法を提案。がん、神経変性疾患、呼吸器系疾患など、79種類の病気について、罹患者の遺伝子発現データから病気を特徴づける遺伝子群を抽出し、それぞれの病気に対する遺伝子群が分子間相互作用ネットワーク上で構成するモジュールを、その病気を特徴づける分子群として同定した。そして、79種類全ての病気のペアについて、病気を特徴づけるモジュールの分子群の近さから、病気間の類似性を計算した。

次に、病気間類似性と創薬標的分子や治療薬の共通性の対応関係をモデル化し、創薬標的分子候補または治療薬候補を探索する機械学習アルゴリズム(AI基盤技術)を開発。その結果、予測精度の指標のひとつで実用的に重要となる再現率5%時点の適合率を検証したところ、従来法と比較して、最大3倍向上させることができたという。実際に、酵素-基質に関する分子間相互作用ネットワークを用いて、さまざまな病気の創薬標的分子や治療薬の共通性を探索。一例として、特発性肺線維症と2型糖尿病が創薬標的分子を共有する可能性が予測された。このことは、マウスを用いた研究において、糖尿病の経口薬が特発性肺線維症の治療に効果があることが近年の文献で報告されており、この予測結果の妥当性を確認することができたという。

オミックスデータや臨床データの融合で、幅広い病気に対する医薬品開発目指す

今回の研究により、病気を特徴づける生体分子相互作用ネットワークの比較から、異なる病気間の潜在的な関係性を見出すというコンセプトが提唱され、病気の類似性を評価する新しい方法が提案された。さらに、さまざまな病気に関与する分子ネットワークの情報と創薬標的分子や治療薬の情報の相関関係をモデル化し、病気の類似性に基づき、さまざまな病気に対して創薬標的分子や治療薬候補を探索する機械学習手法が開発された。これにより、創薬標的分子や治療薬の同定だけでなく、病気のメカニズムの解明や薬効の予測など、医薬品開発の促進が期待される。

研究グループは、「今後は、遺伝子発現データだけではなく、他のさまざまなオミックスデータや臨床データを融合することにより、創薬標的分子や治療薬の探索精度をさらに向上させ、さまざまな病気に対する医薬品開発につなげていく予定だ」と、述べている。

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