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腫瘍の血管内皮細胞からのCAFが、がんを悪性化するメカニズム解明-東京医歯大ほか

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2020年07月14日 PM12:45

/TNF-αによるシグナルはどのように相互作用しているか

東京医科歯科大学は7月14日、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)と腫瘍壊死因子α()により血管内皮細胞から形成されるがん関連線維芽細胞()が、がん細胞の悪性化を促進するメカニズムをつきとめたと発表した。これは、同大大学院医歯学総合研究科硬組織病態生化学分野の渡部徹郎教授と吉松康裕講師(現・新潟大学)の研究グループが、東京大学大学院医学系研究科分子病理学分野の宮園浩平教授と赤津裕一氏(現・日本化薬株式会社)、北海道大学大学院歯学研究院口腔病態学分野の樋田京子教授との共同研究によるもの。研究成果は国際科学誌「Cancer Science」に掲載されている。


画像はリリースより

腫瘍組織には、がん細胞のみならず腫瘍血管やCAFなど多種類の細胞が存在し、がん微小環境が構成されている。こうした構成細胞はさまざまな液性因子(サイトカイン)を介して相互作用し、がんの進展を誘導する。つまり、がん微小環境ネットワークをより良く理解することは、新規がん治療法を開発するために重要である。

多くの種類のがんにおいて高発現しているTGF-βは、上皮がん細胞から転移能の高い間葉系細胞(線維芽細胞など)への分化転換(上皮間葉移行:EMT)のみならず、血管内皮胞からCAFへの分化転換(内皮間葉移行:EndMT)を誘導する。研究グループは以前EndMT由来のCAFが、がんの悪性化を亢進することを報告。しかし、この現象のメカニズムについては解明されていない。さらに、腫瘍組織に浸潤する炎症細胞はTNF-αを含むさまざまな炎症性サイトカインを分泌するが、これら2つの因子によるシグナルがどのように相互作用しているかについては未解明な部分が多い。

TNF-αがTGF-βによるEndMT誘導を亢進することで、がんの悪性化に寄与

研究グループは、複数の種類のヒト血管内皮細胞を用いてTGF-βによりCAFへと分化転換する過程におけるTNF-αの役割について解析。その結果、血管内皮細胞はTGF-β存在下で培養すると間葉系細胞の性質を獲得するが、TNF-αを添加するとTGF-βによるEndMTはさらに亢進することがわかった。

また、血管内皮細胞をTGF-βとTNF-αで処理することで分化転換するCAFにおいて、TGF-βシグナルが長時間維持されることが判明。TGF-βシグナルを活性化するTGF-β自身をCAFが産生するのではないかと予測していたことから、TGF-βファミリーメンバーの発現に対するTGFβとTNF-αの効果を検討したところ、TGF-β2の発現上昇が示された。以上の結果から、TNF-αはTGF-βによるEndMT誘導をTGF-βシグナルの増強により亢進することが示唆された。

TGF-βとTNF-αによるEndMTにより形成したCAFにおいて、がん細胞の悪性度の指標であるEMTを誘導するTGF-β2が産生されているということが示されたことから、研究グループは続いて、産生されたTGF-β2が実際にがん細胞のEMTを誘導できるか検討した。TGF-βとTNF-αの存在下で培養した血管内皮細胞(CAF)の培養上清に含まれる液性因子を加えて、口腔扁平上皮がん細胞を培養したところ、上皮細胞マーカーであるE-カドヘリンの発現が低下し、間葉系細胞マーカーであるビメンチンの発現が上昇した。

中和抗体によるTGF-β阻害でEMT誘導作用が抑制、新たな治療法開発へ

さらに、この効果がCAFから分泌されたTGF-βによるものであるか検討するために、中和抗体を用いたTGF-βの阻害実験を行ったところ、CAF由来液性因子によるEMT誘導作用が抑制された。以上の結果から、TNF-αがTGF-βによるEndMT誘導を亢進することで、がんの悪性化に寄与することが示唆された。

近年、がん治療の標的として、がん悪性化を制御するCAFが注目されている。CAFの起源としては腫瘍組織に存在する線維芽細胞が知られているが、血管内皮細胞から分化転換するCAFが、CAFにおける3割程度を占めるという報告もあり、TGF-βによる血管内皮細胞からCAFへの分化転換はがん治療の標的として注目を集めている。「今回、中和抗体を用いたTGF-βシグナル阻害によってがんの悪性化を抑制することができたことから、将来、腫瘍組織におけるTGF-βシグナルを抑制することで、がん微小環境ネットワークを標的とした新たながん治療法の開発へ応用されることが期待される」と、研究グループは述べている。

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