肺がんの2~3割で転写因子Nrf2活性化、抗がん剤や放射線治療抵抗性
東北大学は7月7日、がん細胞のNrf2を抑制するのではなく、がん周囲の正常細胞(特に免疫細胞)においてNrf2を活性化させることで、がんの進行を抑制できることを、マウスを用いた実験で実証したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の鈴木未来子准教授、山本雅之教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cancer Research」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
Nrf2は、細胞が毒物や酸化ストレスに曝された際に活性化し、これらのストレスから細胞を防御する役割をもつ転写因子。肺がんの約20~30%には、Nrf2が常に活性化するような遺伝子変異が生じており、これによりがん細胞は抗がん剤治療や放射線治療に対する抵抗性を獲得することが知られている。このようなNrf2活性化を伴う悪性腫瘍に対して、がん細胞におけるNrf2を抑制する治療法が検討されている。しかし、Nrf2はストレスから正常細胞を守る役割もあるため、Nrf2の抑制は副作用の懸念があり、実用化されていない。
一方で、以前に山本教授らの研究グループは、免疫細胞などの正常細胞でNrf2を活性化すると、腫瘍の進行を抑制できることを報告した。そこで今回の研究では、Nrf2活性化を伴う悪性腫瘍についても、周囲の正常細胞でのNrf2を活性化させることで、腫瘍を抑制できるか検討した。
全身でNrf2を活性化したマウスは腫瘍抑制、生存率上昇
研究グループは、遺伝子組換え技術を用いて、Nrf2を抑制するはたらきをもつKeap1タンパク質の量を減らすことでNrf2を全身で活性化させたマウスと、対照となる野生型のマウスに、Nrf2活性化肺がんを作らせ、がんの進行を観察した。その結果、野生型マウスと比べて、全身でNrf2を活性化したマウスは、腫瘍の大きさが減少し、生存率が上昇。さらに、全身でNrf2を活性化したマウスにおいて、血液細胞(免疫細胞)でのみNrf2を活性化しないようにすると、腫瘍抑制効果が弱まったことから、特に免疫細胞におけるNrf2活性化が腫瘍抑制に重要であることがわかった。
研究グループは、「Nrf2は正常細胞をストレスから保護する役割をもつため、Nrf2 を抑制する治療法に比べて、この治療法では副作用が少なくなると考えられる。この研究成果は、予後不良のがんに対する新しい治療法の開発に結びつくものと期待される」と、述べている。
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・東北大学 プレスリリース