SIRPα結合環状ペプチドはSIRPαとCD47の結合を阻害
神戸大学は7月8日、マクロファージ上のSIRPαに特異的に結合する環状ペプチドを発見し、そのペプチドが抗体医薬により誘導されるマクロファージのがん細胞に対する貪食作用を高めることを明らかにしたと発表した。これは、同大大学院医学研究科シグナル統合学分野の村田陽二准教授、的崎尚教授らと、東京大学大学院理学系研究科の菅裕明教授、大阪大学蛋白質研究所の中川敦史教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Chemical Biology」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
近年、分子標的薬を用いたがんの治療が行われ、その有効性が示されつつある。分子標的薬の中でも、薬剤の製造コストや副作用の面などから低分子薬と抗体医薬の特性を併せ持つ中分子サイズの「環状ペプチド」が注目されており、抗がん剤や他の薬剤の作用を増強する薬剤としての利用が期待されている。これまでに、的崎教授らの研究グループでは、マクロファージの細胞膜に存在するタンパク質SIRPαとその貪食標的となるがん細胞の細胞膜に存在するタンパク質CD47が結合すると、がん細胞を標的とする抗体により誘導されるマクロファージのがん細胞に対する貪食活性が弱められ、一方で、SIRPαとCD47の結合を阻害するとその活性が高められることを見つけていた。
そこで、研究グループは、菅教授らが先に開発した「RaPIDシステム」(環状ペプチドを迅速かつ安価に同定できる実験系)を利用し、SIRPαに結合する中分子サイズの環状ペプチドの探索を行った。これにより、15個のアミノ酸からなるSIRPα結合環状ペプチドを見つけた。また、得られたSIRPα結合環状ペプチドがSIRPαとCD47の結合を阻害する作用を持つことを発見した。X線結晶構造解析を行い、環状ペプチドとSIRPαの結合の様子を捉えた結果、その阻害メカニズムはSIRPαのペプチドとの結合によるダイナミックな構造の変化によるものであると考えられた。
抗体医薬によるマクロファージのがん細胞貪食をSIRPα結合環状ペプチドが促進
さらに研究グループは、SIRPαとCD47との結合を阻害する能力を持つSIRPα結合環状ペプチドが、がんの治療薬として利用可能であるかについて検討を進めた。その結果、ヒトBリンパ腫由来がん細胞を標的とする抗体医薬「リツキシマブ」やマウス由来のメラノーマ細胞を標的とする抗体(TA-99抗体)により誘導される、がん細胞に対するマクロファージの貪食作用を、SIRPα結合環状ペプチドが高めることが確認された。
加えて、メラノーマ細胞を移植した腫瘍モデルマウスにTA-99抗体とSIRPα結合環状ペプチドを同時に投与した場合、それぞれの単独投与に比べ、マウスの肺に形成されたメラノーマ細胞の腫瘍結節(メラノーマ細胞の塊)の数が著明に減少することがわかった。これらのことから、少なくともマウスの生体内では、SIRPα結合環状ペプチドががん細胞を標的とする抗体医薬の抗がん作用を増強することが示された。
研究グループは、「今後、有効性と安全性の高い最適化されたSIRPα結合環状ペプチドを開発できれば、がんの新たな治療薬になることが期待される」と、述べている。
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