ATACH-2試験サブ解析、患者の性別が臨床転帰や積極降圧療法の有効性・安全性に影響を及ぼすか?
国立循環器病研究センターは7月7日、Antihypertensive Treatment of Acute Cerebral Hemorrhage(ATACH)-2試験(Clinical Trials.gov NCT01176565;UMIN000006526)に基づくサブ解析研究の結果について発表した。この研究は、同センターの福田真弓データサイエンス部医師(脳血管内科併任)、豊田一則副院長、山本晴子臨床研究管理部長、古賀政利脳血管内科部長ら、海外研究者の研究グループによるもの。研究成果は、「Stroke誌」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
脳出血は、日本を含む東アジアで特に多い疾患であり、国内においては脳卒中全体の約2割を占める国民病であるにも関わらず、有効な治療法に乏しいのが現状だ。高い効果が期待される脳出血治療法の1つに、急性の積極的な降圧療法が挙げられる。
国立循環器病研究センターの研究グループは、急性期の積極降圧療法が脳出血臨床転帰を改善するかどうかを調べるために、米国、中国、台湾、韓国、ドイツの研究者らとともに、研究者主導国際共同試験ATACH-2を実施。同試験には日本国内からは国立循環器病研究センターを含む14施設が参加した。
ATACH-2試験では発症から4時間半以内の脳出血患者を積極降圧群(収縮期血圧110~139mmHg)と標準降圧群(140~179mmHg)とに無作為に割付け、降圧薬ニカルジピンの持続静脈注射によって24時間にわたり目標血圧範囲を維持した。主要評価項目である3か月後の死亡または高度機能障害の割合(脳卒中患者の自立度の尺度であるmodified Rankin Scaleの4~6に相当)は、両群とも約38%で有意差はなかった。この成果は、2016年にNew England Journal of Medicine誌に掲載された。
今回のサブ解析では、ATACH-2試験に参加した患者の性別が、臨床転帰や積極降圧療法の有効性・安全性に影響を及ぼすかを調べた。
積極降圧療法の効果における性差は確認できず
ATACH-2試験に登録された1,000例(うち日本人288例)のうち、女性は38%だった。女性は男性に比べより高齢で、脳出血発症前に降圧薬の内服歴を有する割合が高く、また出血の部位は脳葉出血が多い結果だった。
脳出血後の血腫拡大は、男性により多く見られた(女性24.3%vs. 男性29.5%)。女性は男性と比較し3か月後の転帰不良(modified Rankin Scale4~6)の割合が高く(女性44.3%vs.男性34.3%)、年齢、脳室内出血の有無、来院時の意識レベルなどの各種因子を調整したモデルにおいても、死亡、死亡または機能障害のいずれもリスク比が1.0を上回り、女性は転帰不良のリスクが有意に高いことが示された。一方で、積極降圧療法の効果における性差は確認できなかった。
治療以外の因子、抑うつやフレイルの合併が女性に多いことなどが影響した可能性
介護などを必要とせず健康に生活できる期間を示す健康寿命の延伸は、全世界的な医療上の課題だ。特に長命である女性の健康寿命を伸ばし、要介護者を減らすことは医療経済的な側面からも社会的なインパクトが大きいと考えられる。
要介護状態に陥る主たる原因である脳卒中では、近年、様々な研究により女性の臨床転帰が男性に比して不良であることが示されつつある。しかし多くの研究は脳梗塞のみあるいは脳出血と脳梗塞をまとめた報告であり、脳出血単独での臨床的転帰と性差に関する報告は多くなかった。
今回の研究結果より、急性期脳出血大規模臨床試験のデータにおいても女性の脳出血後臨床転帰は男性に比べ不良であることがわかった。一方、脳出血超急性期の積極的降圧の効果に男女差があると結論付けることはできなかった。脳出血の転帰に性差が認められた原因について、同研究の対象は疾患重症度や降圧療法以外の治療介入の程度も比較的均一化された集団と考えられるため、治療以外の因子、抑うつやフレイルの合併が女性により多いことなどが影響した可能性が推察されるが、研究グループは今後の検証が必要だとしている。
ATACH-2試験からは、他にも多くのサブグループ解析が計画され、国立循環器病研究センターの研究グループもそのいくつかを担当している。研究グループは、「今後のさらなる解析結果を経て、真に日本人に有効な急性期脳出血治療法が解明されてゆくことが期待される」と、述べている。
▼関連リンク
・国立循環器病研究センター プレスリリース