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行動依存症患者にリスクを取る傾向ありと判明、前頭前皮質の活動減弱と関連-京大ほか

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2020年07月08日 PM12:15

行動依存症の全貌把握のため、先行研究の少ない窃盗症や性嗜好障害について研究

京都大学は7月7日、行動依存症の患者はリスクを取る傾向があり、それが脳の前頭前皮質の活動減弱と関連していることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大理学研究科の浅岡由衣修士課程学生、同大霊長類研究所の後藤幸織准教授、共和会共和病院の元武俊医師らの研究グループによるもの。研究成果は、「International Journal of Neuropsychopharmacology」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

行動依存症は、不利益な結果になるとわかっていながらも、特定の行動への衝動が抑えられず、何度も繰り返す行動障害。依存症はこれまで覚せい剤やアルコールなどの物質を対象とするものだと考えられてきたが、近年では行動に対する依存が注目されている。インターネット依存やゲーム障害など、すでに深刻な社会問題となっており、2018年にはWHOが行動依存症を精神疾患であると認定し警鐘を鳴らすなど、病態解明が強く望まれている。

しかし、行動依存症を特徴づけるような神経メカニズムの知見はなく、これまで研究の進んできた物質に対する依存症との共通点相違点も明らかになっていない。また、行動依存症の性質を理解するためには、行動依存症の診断基準とも合致するさまざまな行動障害を比較検討する必要があるが、ギャンブル障害やインターネット依存ゲーム障害に関する先行研究は比較的進んでいるものの、行動依存症の中でも万引きなどの窃盗症や、痴漢や盗撮といった性嗜好障害に関する知見は乏しいのが現状だ。行動依存症の全貌を把握するために、さらなる研究が必要とされている。

高リスク追求行動の傾向は行動依存症であることのほかに、IQが重要な要因と判明

行動依存症の基盤には報酬系が成す条件づけ(第1信号系)があり、それを抑制する前頭前皮質の活動(第2信号系)が弱まっているせいで、行動を制御できていないとする仮説(二重情報処理システム)がある。研究グループは今回、この仮説を検証するために、窃盗症や性嗜好障害などの行動依存症入院患者16人と健康な男女31人に協力を依頼し、二重情報処理システムによる意思決定の心理学的調査を行った。同研究では、経済活動に関連する意思決定の調査と、意思決定までの慎重さを推定する「結論への飛躍課題」を行い、課題実行中の脳活動を、光トポグラフィーを用いて計測した。

1つ目の「経済活動に関連する意思決定の調査」では、行動依存症の患者は健康な統制群よりも、賭けなどで高いリスクを追求することがわかった。しかし、回帰分析処理の結果、高リスク追求行動の傾向は、行動依存症であることのほかに、IQが重要な要因であることが判明した。2つ目の「結論への飛躍課題」においては、回答までの早さという結論への飛躍バイアスには差がなかったものの、行動依存症患者は、健常者よりも課題の正答率は低く、物事の確率を正確に計算判断できていないことが判明した。また、光トポグラフィーを用いた脳活動計測により、課題実行中の右前頭前皮質の活動が減弱していることが判明した。

これらの結果から、行動依存症では、(第2信号系)の活動に依存する確率判断の障害が関連しており、依存行動時の社会的リスクの高い行動をとることがどのような結果につながるかを認識できず、その結果、それらの行動の抑制ができていないと考えられる。先行研究では、行動抑制課題において物質への依存症やギャンブル障害での前頭前皮質の活動減弱が報告されており、今回の研究は、窃盗症や性嗜好障害などが行動依存症である神経メカニズムの根拠として、前頭前皮質の活動が低下している可能性を、初めて示唆するものとなる。

精神疾患と認知されていない万引き・盗撮・痴漢にも認知特性や脳活動の異常があり、治療が必要

今回の研究では、先行研究例の少ない行動依存症を対象に研究を行い、すでに知見があるギャンブル障害などの特徴と比較をすることで、行動依存症の性質を明らかにすることを可能にした。

しかし、同研究で用いた光トポグラフィーなどのヒトの脳神経科学研究分野における非侵襲的脳機能イメージング計測技術では、被験者の課題遂行と関連する脳活動領域を検知することができるが、機能との因果関係を明示することはできない。一方、経頭蓋直流電気刺激や経頭蓋磁気刺激では、特定の脳領域の活動を抑制または増強することで、脳活動と機能との因果関係を示すことができる。こうした因果関係を証明する実験は、動物モデルの存在しない行動嗜癖に関する研究ではほとんど行われていないため、今後の研究ではこれらの手法を用いることで、動物モデルが存在しない行動嗜癖において因果関係を示し、行動嗜癖における脳神経メカニズムの強力な証拠を提示することを計画しているという。

万引きや盗撮、痴漢などの犯罪行為は、多くの場合、精神疾患であると認知されず、治療の対象にはなっていない。しかし今回の研究結果から、その認知特性や脳活動の異常が見出され、犯罪の抑止として適切な治療を行う重要性が示唆された。

研究グループは、「本研究の対象となった窃盗症や性嗜好障害の他にも、行動依存症であると考えられている行動障害は少なくないが、多くの場合精神疾患であると認知されず、治療の対象とはなっていない。行動依存症の認知特性や脳活動の異常が次第に明らかになってきたことで、適切な治療を行う重要性が問われ始めている」と、述べている。

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