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PI3K高発現の卵巣がん、「TIE-1」が新たな治療標的となる可能性-東北大ほか

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2020年07月07日 AM11:45

種々の腫瘍で血管新生との関与が報告されているTIE-1

東北大学は7月6日、卵巣がん細胞において、チロシンキナーゼ受容体型タンパク質「」が細胞増殖に関与していることを発見したと発表した。これは同大大学院医学系研究科の産婦人科分野の八重樫伸生教授と摂南大学薬学部の北谷和之講師らの研究グループによるもの。研究成果は「Cancers」に掲載されている。


画像はリリースより

卵巣がんは婦人科の悪性腫瘍の中で最も治療後の経過が悪い疾病で、その罹患率および死亡率は年々増加傾向にある。卵巣がんには、DNA複製を阻害する白金製剤と細胞分裂を阻害するタキサン系薬剤の併用による化学療法が有効だが、多くの症例で治療後に耐性が生じてしまい、治療経過が悪くなる原因となっている。そのため、卵巣がんにおける新規治療標的の探索や抗がん剤耐性を伴う難治性がんに対する治療法の開発は、婦人科腫瘍の治療において喫緊の課題だ。

近年、白血病細胞あるいは乳がん、メラノーマなど種々のがん組織において、血管の新生および血管の安定性に関与する因子TIE-1が過剰に発現し、腫瘍における血管の形成に関与していることが報告された。これにより、TIE-1は悪性腫瘍の進行や治療後の経過の予測因子となる可能性が認識されてきた。八重樫教授らのグループは、以前に、TIE-1が卵巣がん細胞においてDNA修復機構を活性化することで抗がん剤耐性を獲得させることを明らかにし、TIE-1の機能を阻害することでがん細胞の増殖が抑えられることを報告している。

TIE-1はPI3K/Aktシグナル伝達経路を介して、卵巣がん細胞の増殖を制御

研究において、卵巣がん細胞でTIE-1の量を人為的に抑えると、細胞の増殖や生存に関与する一連の因子(/Aktシグナル伝達経路分子)の量が顕著に減少。さらに、11種類の卵巣がん細胞株においてTIE-1の量を抑えた結果、PI3Kの発現量が高い細胞株では細胞増殖が減少し、PI3Kの発現量が低い細胞株では細胞の増殖は減少しないことが確認された。以上よりTIE-1はPI3Kを介して細胞増殖を制御しており、TIE-1の阻害による細胞増殖の抑制効果は、PI3K高発現の卵巣がんに対してのみ効果的であることが明らかになった。また、PI3K発現が低い細胞株において、TIE-1の発現量を人為的に高くするとPI3K発現も高くなり、細胞の増殖も促進された。よって、TIE-1はPI3K/Aktシグナル伝達経路を介して、卵巣がん細胞の増殖を制御していると考えられる。

今回の研究から、TIE-1がPI3K発現の高い卵巣がんに対する新たな治療標的となる可能性が見出された。「将来的にはTIE-1阻害剤を開発し、卵巣がんの特徴に合わせた治療を提供することで、難治性卵巣がんの治療効果の改善に大きく貢献できることが期待される」と、研究グループは述べている。

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