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乳製品の摂取で乳酸菌が増殖可能なまま回腸末端まで到達することを確認-ヤクルトほか

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2020年07月07日 PM12:15

ERBIで回腸末端部の細菌叢構成およびL.カゼイ・シロタ株とB.ブレーベ・ヤクルト株の動態を調査

株式会社ヤクルト本社は7月6日、乳酸菌ラクトバチルス カゼイ シロタ株(以下、L.カゼイ・シロタ株)を含む乳製品の単独摂取、ビフィズス菌ビフィドバクテリウム ブレーベ ヤクルト株(以下、B.ブレーベ・ヤクルト株)を含む乳製品の単独摂取および両乳製品の同時摂取が、(小腸の後部)末端部の細菌叢構成に及ぼす影響を、内視鏡的逆行性腸管挿入法(endoscopic retrograde bowel insertion method:ERBI)で調査した結果を発表した。この研究は、同社と弘前大学の共同研究グループによるもの。研究成果は、「Gut Microbes」に掲載されている。


画像はリリースより

乳酸菌などのプロバイオティクスには、整腸作用、免疫調節作用、ストレス緩和作用などを示すことが報告されている。一方、このようなヒトに有益な作用をもたらすプロバイオティクスの小腸内での動態に関しては、これまで十分に検証されていなかった。

研究グループはそれらを検証するため、回腸末端部の内容物を採取することのできるERBIを用いて、L.カゼイ・シロタ株およびB.ブレーベ・ヤクルト株を含む乳製品を摂取した直後から回腸内容物を含む液(回腸液)を経時的に採取し、回腸末端部の細菌叢構成およびL.カゼイ・シロタ株とB.ブレーベ・ヤクルト株の動態について調査した。

両菌株とも、代謝活性と増殖性を保持したまま回腸末端部まで到達

まず、7人の健常な男性(平均年齢37.6±13.2歳)を対象に、L.カゼイ・シロタ株を含む乳製品、B.ブレーベ・ヤクルト株を含む乳製品を、それぞれ単独または同時に摂取してもらった。摂取後30分ごとに最大7時間まで、ERBIを用いて回腸液を回収した。

ERBIは、弘前大学大学院医学研究科 消化器血液内科学講座にて開発された、胃液および胆汁の分泌に影響を与えることなく、生理学的条件下で経時的に回腸液を採取する方法。これまで、難消化性デンプンやラフィノースなどの難消化性多糖類、ペクチンやセルロースなどの食物繊維の消化吸収の分析に用いられてきた。同研究では、プロバイオティクスを含む乳製品摂取後の回腸末端部の環境変化を解明することを目的としてERBIを用い、回腸液を回収した。

採取された回腸液は、次世代シーケンサーを用いて細菌叢構成を解析した。また、L.カゼイ・シロタ株とB.ブレーベ・ヤクルト株をそれぞれ、生菌数として測定できる寒天平板培地を用いて回腸液を培養し、コロニーの確認を行った。

被験者4人(a~d)にL.カゼイ・シロタ株を含む乳製品、4人(e~h)にB.ブレーベ・ヤクルト株を含む乳製品をそれぞれ単独摂取してもらい、3人(i~k)には両乳製品を同時摂取してもらった(一部の被験者は試験を複数回実施)。乳製品を摂取してから30分毎に回腸液の細菌叢を経時的に調べた結果、L.カゼイ・シロタ株を含む乳製品の単独摂取においては、摂取後1.0~5.5時間の間、L.カゼイ・シロタ株が細菌叢の90%以上を占有するケースが確認された。B.ブレーベ・ヤクルト株を含む乳製品の単独摂取においては、摂取後4.0~4.5時間の間、B.ブレーベ・ヤクルト株が細菌叢の90%以上を占有するケースが確認された。また、L.カゼイ・シロタ株およびB.ブレーベ・ヤクルト株を含む乳製品の同時摂取においては、摂取後4.5~5.0時間の間、両菌株で細菌叢の90%以上を占有するケースが確認された。

また、回腸末端部まで到達したL.カゼイ・シロタ株およびB.ブレーベ・ヤクルト株は、ともにコロニー形成能を有していたことから、両菌株は代謝活性と増殖性を保持したまま、回腸末端部まで到達したことが明らかになったという。

同研究成果がプロバイオティクスの各種機能性のメカニズム解明につながる可能性

今回の研究では、胃液や胆汁に曝された直後のプロバイオティクスの動態解析にERBIが用いられた。ERBIの導入により、従来の糞便を用いた腸内細菌叢解析では確認できなかった回腸末端部における細菌叢の推移を解析することができた。

摂取した食品中のプロバイオティクスが回腸末端部までどのように到達し、どの位の時間留まるのかを把握することは、その成分が宿主に与える影響を検討するうえで重要であると考えられる。L.カゼイ・シロタ株やB.ブレーベ・ヤクルト株が強酸性の胃液や中性~アルカリ性である胆汁および膵液という劇的なpHの変化に曝されながらもその後、回腸末端部の多様な常在細菌が存在する環境下で、細菌叢構成を数時間に渡り占有したという結果は、これらのプロバイオティクスの各種機能性のメカニズム解明の糸口になると考えられる。研究グループは、「今後も大腸や小腸の細菌叢構成や内容物組成の解析を通じて、プロバイオティクスの消化管や全身に及ぼす作用とメカニズムについて研究していく」と、述べている。

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